のみこんだコトバ

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「だったらさっさと行けば。さっきから五月蠅いよアンタ」 「どうやって帰れるのよ!?」 「僕が知るわけないだろ、僕はここから出たことがないんだから。自分で探しなよ。なんでもかんでも最初に人に答えを求めないで、まず自分の頭で考えて行動したらどうなんだ」 「何を偉そう……」 「って、一昨日木下さんに思ってたっけ」 「……!」  思った。中途採用で入ったので優秀なのかと思ったら、一度教えたのにこれどうやるんですかと何度も聞いて来る。そのうちあれもこれも聞いてきて苛々した。とうとう我慢できずに「この間教えてるからまず自分でやって」と言ったが、不満は止まらなかった。 「記憶と同じ、言葉は腹の中に留まり続ける。それは降り積もり山となってどんどん蓄積されていく」 「……だから何。何か困るの」 「困るのは僕じゃないから別にどうでもいいな。でもそうだなぁ、人間の寿命が大体八十歳位だとして。生きている中では不満って絶対にあるだろ。見渡す限り年齢の高い人ほど高い山になるはずなんだけど、そこまで大きな山ってないんじゃないかな」  言われてあたりを見渡せば確かに。大小様々な山が並んではいるが、巨大な山があるかというとそんなものはない。自分の山がかなり高い方ではあるが似たような高さの山があってもそれ以上は無いのだ。 「一定の高さになるとね、積もりきらなくなった不満が自然と口からこぼれていくようになるんだ。だから溜まらなくなる。子供のころは文句なんてあまり言わないのに年を取って来ると愚痴が多い。年寄りなんて文句しか言わないだろ。でも、あまりにも多いとそのうち言葉だけじゃなくて体から溢れ出てくる。そうなるとね、壊れちゃうんだ」 「壊れるってなに」 「身の回りにたくさんいるんじゃないの。仕事を辞めた人たち、何で辞めたんだ」  人間関係が悪化して、ほとんどの者は鬱のような症状で辞めていた。鬱でなくとも糖尿病、睡眠障害、体調不良。ストレスを溜めすぎたことによる身体の不調。そんな具合悪くなるのは自己管理ができていない情けない奴だと思っていたが。 「どのくらい積もったらだめなの!?」 「だいたい、そのくらいかな」  クイっと顎で示されたのは、自分の不満の山。
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