のみこんだコトバ

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 そんな馬鹿な、たしかにイライラすることは多かったが鬱になんてなっていない、こいつ口から出まかせを。そう考えるとふわふわと紙が落ちてくる。それを見た青年は小さくため息をついた。 「苛ついて運転したから事故起こしただろ。本当にこういう奴らって自覚ないんだな、不思議なもんだ」  やれやれ、といった様子で青年は首を振ると別の山から数枚紙を掴む。今見ているのは女性の隣の山で大きさは背丈ほどもない。かなり小さな山といえる。 「へえ、面白い。みてごらん」 「なにー?」  少女を手招きして紙を見せる。女もチラリと見ると、ふわっと文字が浮かんだ。 "杏奈がよそよそしい、嫌われる事したっけ"  しかしその紙はあっという間に透明になり消えた。 「きえた。ひさしぶりにみたー」 「本当にね」 「……なに、今の」 「娘の態度が変わって不安に思ってたから話をしたんだよ。そしたら実は恋人からプロボーズされて、いつ話を切り出そうか考えこんじゃったみたいだ。この人はタイミングを見計らって伝えたい事を真っすぐ伝える。だから一時的不満、いや不安かな? それがあってもすぐに解消されて消えていく」  見ればたしかに、その山は何も降ってこない。しかも見つめていたら目に見えて数センチ山が低くなった。どうやら娘と談笑できて他の不満も消えたらしい。 「今の時代、これができる人は珍しいな。大勢の人間は誰かが、何かが、国が会社が家族が友達がなんとかするまで待って自分では何もしない。何かあればいつも目に見えない誰かのせいにする。馬鹿みたい」 「ばーかばーか」  少女は明らかに女に向けて言っている。そして、再び女の山に紙が降ってくる。  この紙をどうにかしなければ、自分がどうにかなってしまう。元の生活に戻ったとしても体を壊したら意味がない。ここから出る方法はこいつらから吐かせるとして、山をなんとかしなければ。  崩せばいいのか、それとも紙を破って捨てる? この膨大な量を。果てしなく徒労だ、無駄なことが大嫌いな自分には向かない。  しかし女はふっと笑う。もっと簡単な方法があるじゃないか。建屋のそばに置いてあった農具の中から、大きなザルのような物を掴むと大量に紙を乗せ、すぐ隣の山に投げつける。  その様子を見ていた青年は目を丸くした。少女はキョトンとしている。
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