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山が積もって支障がでるなら、移動すればいい。積もらなければいいのだ。元の生活に戻ったらもっと優秀な人材が揃う会社に転職してストレス発散を何か見つければいい。今、これをどうにかすればいいのだ。
建物より高い山だが、下の方をザクザク掘るように隣に移せば崩れてきて丁度掬いやすい。二人は咎めるわけでも、止めるわけでもなくただひたすらその様子を見届ける。
「破るとか燃やすかと思ったら、移動か」
「おもしろーい!」
二人の会話を無視し、疲れるまで作業を続ける。そしてだいぶ山が低くなったころ、汗だくになり動きを止めた。そして二人を睨みつける。
「ここから戻る方法教えなさい、知ってるんでしょ!」
「相手の事情を聞かないし配慮もしない、自分が思った事がすべて。めんどくさい奴」
「さっさと言え!」
「かがみー、ひまー。あそぼー」
少女が緊張感のない声でかがみと呼ばれた青年の裾をクイクイと引っ張る。するとかがみはそうだねとうなずいた。
「僕は静寂が好きなんだ。お前ぎゃあぎゃあ五月蠅いしさっさと消えてくれ」
そう言うと女に向かって右手を差し出し額を指で弾いた。
「痛い!」
指で弾かれたとは思えない位凄まじ痛み。額が裂けて血でも出たのではないかと言う位に激痛だ。
痛い、痛い。そっと指で拭って見てみると本当に血が出ている。なにこれ血じゃない、軽くパニックになっていると外から声が聞こえた。
「大丈夫ですか!」
朦朧とする意識の中、外を見ると救急隊員のような格好の人が車の窓を叩いている。
そうだ自分は交通事故を起こした。何とか車の窓を開けようとするがドアが歪んでしまったらしく窓が開かない。ドアのロックを解除すると外から無理矢理扉をこじ開けもう大丈夫ですからと数人の男性が救助に取り掛かる。
助かった。その安心感とともに先程の出来事が脳裏をよぎる。あれは死後の世界だったのだろうか、自分は死んでいないからその手前の世界なのだろうか。
今妙に頭が、心がすっきりしていた。最近ストレスが溜まりイライラすることが多かった。いつもの自分だったらなんでこんな目にあわなきゃいけないんだ、早く救助しろノロマ、など考えていたに違いない。しかし今こみ上げるのは救急隊の懸命な活動に対する感謝の気持ちだけだ。
「ありがとうございます」
素直にそう言うことができる。腹の中に書かれていたものが減ったおかげなのだろうか。
言いたい事は口に出した方が良い、言葉を飲み込むと腹の中に止まる。飲み込んだ言葉は腹の中に積もり積もって体に悪い影響を及ぼす。
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