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ひらひら、ひらひら。
紙が舞い落ちてくる。それはどんな和紙よりも薄く、明かりに照らされると透けて見える。大きさは丁度、七夕で飾る短冊ほど。ひらひらと、ゆっくりと。風のないこの場所に降って来る。
それらは降り積もり、小さな山のようになっていく。二階建ての母屋よりも高く、ご神木よりも大きく。
庭にできあがるいくつもの紙の山。色とりどり、模様があるものから線が入ったもの、艶やかに染まったもの。天から降るその紙は、ゆっくりと山に積もっていく。山は、大きくなる。
「おやま、またおっきくなった」
鞠で遊んでいた少女が山を見上げて言った。少女が前に見た時はもう少し小さかったのだが、急激に紙の量が増えた。
「最近増えたよね」
ザルを持ち、山の中に手を突っ込んでいくつかの紙を取り出す青年。無作為にとった紙をザルの中で選別しながら、必要ない紙をぽいぽいと山に戻す。
「皆不満を外にぶつけるだけで、自分じゃ何もしないんだよな。自分で行動しないと変わらないのに、悪いのはいつも世間と他人。良い悪いの話じゃないのにね」
「せけんがわるいなら、じぶんもわるいのにね」
「本当にそう。その世で生きてるくせに、何言ってんだか。ああ、だめだな。この山はもう」
ザルをひっくり返して山にすべての紙を戻した。少女が目を爛々とさせて鞠を抱えたまま駆け寄って来る。
「もやす? やぶく?」
「そうだなあ……ん?」
青年が庭の片隅に目を向ける。そこには一人の女性が立っていた。
「なに、ここ……?」
何が起きたのか分からず、今自分がどこにいるのかも分からない様子だ。そんな女性の様子を二人は面白そうにじっと見つめる。
「あ、あなたたちは? ここ、なんなの?」
「なんなのって言われてもなあ。説明して理解できるかな。ここは腹の中だよ」
「腹?」
「おなかー!」
「別に胃袋の中とかじゃない。そういう場所」
言っている意味がわからず女性は怪訝そうな顔をする。さっきまで確かに運転していたはずだ、取引先へと急がなければならなかった。事故渋滞にひっかかり初めて通る道ということもあって大幅に遅れた、焦っていたと思う。
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