降りつもる殺意

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そして、とうとう百日目を迎えた。その日は前の晩から雪が降り続いて、朝には辺り一面、真っ白になっていた。道路にも、車にも、木にも、塀にも、全てのものに雪は降りつもっていた。今日から始まる私の新しい人生を祝福しているようだと思った。 私はこれまでどおり、夫にコーヒーを淹れ、自分に紅茶を入れた。そして、夫のコーヒーに、瓶の中の最後の一粒を溶かした。私が夫のコートや手袋などを準備している間に、夫はいつもどおりそれを飲み干した。そして、最近はいつも早く帰ってきていた夫が、今日は仕事で遅くなると言った。 本当に仕事なのか、女とよりを戻したのか、それとも新しい女ができたのか。そんなことはもうどうでもよかった。 私の中の夫への殺意は、そんなことで溶けることはないほど、深く、高く、降りつもっていたのだから。 それに、うちではないところで死んでくれた方が都合がいい。それが女の家ならなおさらだ。 玄関で見送った夫の後ろ姿は、なんだかいつもより元気がなさそうに見えた。もう、毒が効き始めているのかもしれない。 私はうきうきした気持ちで部屋に戻り、冷めたトーストをかじり、冷え切った紅茶を飲み干した。 明日からは焼きたてのトーストを食べ、淹れたての紅茶を飲もう。 テレビをつけると、ワイドショーが有名俳優の訃報を伝えていた。妻の女優が泣きながらインタビューに答えている。 そういえば、最近、訃報のニュースが多い気がする。近所でも亡くなった人が何人かいた。 寒さのせいかしら…。 私はそんなことを考えながら、食器を片付けようとキッチンへむかおうとした。 ところが、そのとき、私は今までに感じたことがないような強い眠気を感じてソファに座り込んでしまった。 おかしいな。今朝はどうしてこんなに眠いのだろう。 まあ、いい。急ぐことはない。もうこのうちにいるのは私だけなんだから、ちょっと眠ってからゆっくり片付ければいい…。 私は激しい眠気に襲われ、朦朧とする意識の中で、ふと、考えた。 それにしても、あの毒を売っていたサイト、どうやってたどり着いたのだったか。あのサイトにたどり着いて毒を買った人はどれぐらいいるのだろう。夫を、妻を、恋人を、友達を、親を、兄弟を、様々な理由で殺したいと思っている人が、きっと世の中にはたくさんいることだろう。きっと、私の身近にも。 殺意は雪のように、誰の上にも降りつもるものだから。
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