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「ちょうど良かったわ、二人きりで話がしたかったから」
……逃げたい。話の予想はつく。
「スーのこと。本当にごめんね。今さらだけど、頭から鵜呑みにしないであなたと話せば良かった。長いこと辛い思いをさせてしまった……」
「僕なら大丈夫だよ。それよりスーに謝りたかった。アルが好きだって言われて僕はすぐに諦めたんだ。その方が彼女にはいいと思って。後悔したよ」
「ナイフに飛び込んだって……死にたかったの?」
「……ちょっと違う。あの時の僕はどうかしてたんだ、頭に血が昇って。
今ならそんなことはしないよ。もう僕の中では決着がついてるんだ」
「アルとのこと……」
「その話だけはしたくない、母さん」
「いつからなの? こんなことになったのは」
「僕もアルも絶対話さない。でも母さんに対してやましいところは何もないから。母さんが知りたい気持ちは分かるよ。けど、これだけはいくら聞いても無駄だ」
「リッキーのことなら聞いてもいい?」
「どんなこと?」
「どこに惹かれたの?」
良かった、それならいくらでも語れる。
「彼は真っ直ぐなんだよ。たくさんの人に誤解されてる。本人もそれを知ってたけど何もかも諦めていた。死ぬほど辛い目に遭ってるのに、それが自分に与えられた人生なんだと受け入れていた」
そんな生き方を受け入れて生きてきたんだ、リッキーは。僕にはそんなこと無理だ。
「僕はね、リッキーを信じてないところからスタートしたんだよ。愛してるんだって言われた時、何を言ってるのか分からなかった。こんないい加減なヤツは見たこと無いって思ってたからね。でも違った。知れば知るほどどんどん自分の気持ちが変わっていったよ。まさかこんなに自分にとって必要な人になるとは思ってもいなかった」
「いい時ばかりじゃないわ」
「そうだね」
母さんは目を伏せた。
「いつか……子どもが欲しいと思ったらどうするの?」
「それは僕1人で考えることじゃないよ。これから先、色んなことがあると思う。僕は一人じゃなくて二人で解決しいきたいんだ」
少し間が空いて母さんは顔を上げた。
「分かった。聞きたかったのはそれだけよ。リッキーはビリーの部屋にいるわ。行きなさい。彼を苛めちゃだめよ、あなたよりうんと繊細なんだから」
なんだか僕が苛めをしてるような言われっぷりに、謂れのない扱われ方をされているのは僕の方だとプンスカしながらドドっとビリーのドアを叩いた。
「誰?」
誰もへったくれもない、この叩き方は僕だけなんだから。
「お前の兄貴だ、知らないだろうが」
「入れば」
やけに刺々しい声。ガチャっと開けると向こうを向いて座っているリッキーがいた。
「リッ……」
「フェル、酷いよ! 俺だってそんなことしない!」
何につけても直情型のビリーの頭はあっという間に沸点に達する。
「ジェフみたいな大人になるんじゃなかったのか?」
自分で分かる、今僕はリッキーの後ろ姿に声をかけるのを躊躇っている。
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