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「一晩で変わるなんて無理なことくらい分かるだろっ! それよりリッキーに謝れよ!」
「もういいんだ、ビリー」
なんて悲しげな声出すんだよ。
「フェルになんか分かんねぇんだ、俺の気持ち」
「ダメだよ、泣き寝入りしちゃ」
「おい! 僕がどれほどのことをしたって言うんだよ、説明しろよ!」
ビリーがキッと僕を睨む。
「なんで誕生日のことリッキーに黙ってたんだよ!」
「へ?」
なんだ、それ?
「それがどうしたんだ?」
また大粒の涙が流れ始めるからたまんない!
「待てよ、リッキー、誕生日がどうしたんだよ?」
「フェル、リッキーのこともう少し分かってるかと思った、俺見損なった!」
「だからどうしてそこまで言われなきゃならないんだ!」
「誕生日って恋人がいたら一緒に祝うもんだろ!」
あんぐりしている僕を見て、リッキーが細々とした声で言う。
「初めてのアニバーサリーだったんだ……俺、誰の誕生日も祝ったことない。憧れてたんだ」
僕は騒がせたことをビリーに謝って……納得いかないけど……リッキーの肩を抱いて離れに戻った。
「僕に直接言えばいいんだ。心配したんだぞ」
さんざん僕に謝られて落ち着いてきたリッキーは、さすがに騒がせ過ぎたと思ったのか、すっかりしょげている。
「ジーナにも心配かけたよな……」
いや、あの様子は心配というより面白がっていると言った方が正しい。
「気にするな、母さんは楽しんでたよ、息子じゃなくて娘が出来たみたいだってさ」
「消えてしまいたい……」
「ごめん、本当にそういうこと楽しみにしてたなんて思わなかったんだ」
「俺が悪い、考えてみたら俺が早く聞けば良かったんだ」
「ストップ! やめよう、また次のケンカになりかねない。どっちが悪いかなんてさ」
手を引っ張って額にキスをする。そうだった、リッキーは時々女の子になるんだ。今度からもっと気遣ってやらなくちゃ。
「リッキーはいつ? 式、その日にするか?」
「ずっと先だからそれはいやだ。俺、11月2日なんだ」
「じゃ、今僕が年上か」
「うるさい!」
ようやくいつものリッキーに戻ってホッとした。
2晩続けてのセックスは、さすがに今の僕には無理だった。
「ごめんな、リッキー」
しかもここのところのいろんな騒ぎでドッと疲れが出た僕は、もう眠くてしょうがなかった。
「いいんだ、寝ろよ。俺、見ててやるから。今日は薬要らねぇと思う」
出来ればそろそろ薬とも縁を切りたい。
「悪い、そうするよ。リッキーも早くねるんだぞ……」
あれきり熟睡したらしい僕は早くから目が覚めて、リッキーの寝顔を眺めていた。
髪が一房目にかかっているけど、あんまり綺麗で見惚れていた。かき上げてやったら起こしてしまいそうだ。
打ち身の痛みはもう鈍痛になっている。肝心の場所も、バタバタしている時には忘れるようになってきた。
フラッシュバックはまだ時折起こる。でも最初よりは落ち着いたかもしれない。誰かに対して責任を持つっていうのは、自分をコントロールするのにはいい薬になるのかもしれない。
守っていくべき配偶者が出来る。きっとそのことも僕を強くしていくはずだ。
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