14.忍び寄る影

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  「一晩で変わるなんて無理なことくらい分かるだろっ! それよりリッキーに謝れよ!」 「もういいんだ、ビリー」  なんて悲しげな声出すんだよ。 「フェルになんか分かんねぇんだ、俺の気持ち」 「ダメだよ、泣き寝入りしちゃ」 「おい! 僕がどれほどのことをしたって言うんだよ、説明しろよ!」  ビリーがキッと僕を睨む。 「なんで誕生日のことリッキーに黙ってたんだよ!」 「へ?」  なんだ、それ? 「それがどうしたんだ?」  また大粒の涙が流れ始めるからたまんない! 「待てよ、リッキー、誕生日がどうしたんだよ?」 「フェル、リッキーのこともう少し分かってるかと思った、俺見損なった!」 「だからどうしてそこまで言われなきゃならないんだ!」 「誕生日って恋人がいたら一緒に祝うもんだろ!」  あんぐりしている僕を見て、リッキーが細々とした声で言う。 「初めてのアニバーサリーだったんだ……俺、誰の誕生日も祝ったことない。憧れてたんだ」  僕は騒がせたことをビリーに謝って……納得いかないけど……リッキーの肩を抱いて離れに戻った。 「僕に直接言えばいいんだ。心配したんだぞ」  さんざん僕に謝られて落ち着いてきたリッキーは、さすがに騒がせ過ぎたと思ったのか、すっかりしょげている。 「ジーナにも心配かけたよな……」  いや、あの様子は心配というより面白がっていると言った方が正しい。 「気にするな、母さんは楽しんでたよ、息子じゃなくて娘が出来たみたいだってさ」 「消えてしまいたい……」 「ごめん、本当にそういうこと楽しみにしてたなんて思わなかったんだ」 「俺が悪い、考えてみたら俺が早く聞けば良かったんだ」 「ストップ! やめよう、また次のケンカになりかねない。どっちが悪いかなんてさ」  手を引っ張って額にキスをする。そうだった、リッキーは時々女の子になるんだ。今度からもっと気遣ってやらなくちゃ。 「リッキーはいつ? 式、その日にするか?」 「ずっと先だからそれはいやだ。俺、11月2日なんだ」 「じゃ、今僕が年上か」 「うるさい!」  ようやくいつものリッキーに戻ってホッとした。  2晩続けてのセックスは、さすがに今の僕には無理だった。 「ごめんな、リッキー」  しかもここのところのいろんな騒ぎでドッと疲れが出た僕は、もう眠くてしょうがなかった。 「いいんだ、寝ろよ。俺、見ててやるから。今日は薬要らねぇと思う」  出来ればそろそろ薬とも縁を切りたい。 「悪い、そうするよ。リッキーも早くねるんだぞ……」  あれきり熟睡したらしい僕は早くから目が覚めて、リッキーの寝顔を眺めていた。  髪が一房目にかかっているけど、あんまり綺麗で見惚れていた。かき上げてやったら起こしてしまいそうだ。  打ち身の痛みはもう鈍痛になっている。肝心の場所も、バタバタしている時には忘れるようになってきた。  フラッシュバックはまだ時折起こる。でも最初よりは落ち着いたかもしれない。誰かに対して責任を持つっていうのは、自分をコントロールするのにはいい薬になるのかもしれない。  守っていくべき配偶者が出来る。きっとそのことも僕を強くしていくはずだ。  
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