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「僕はこんなヤツに怯えてるのか? 震えてるのか?」
近くに寄った。臭う。いつからこのカッコなんだろう。醜悪な汚物だ、こいつは。
「キスをしようか、あの時みたいに一つにならないか?」
1 また こころが ぐらぐら しはじめる
「おいでよ、僕のそばに」
――いま、ぼくの手がめり込んだのは何にだろう……
――足元にくずれてるこいつは誰だっけ……
「フェル! 認めるんだ! だめだ、幻覚とだけ戦っちゃ。しっかりそいつと向き合え!!」
「フェル、あんたは強いわ。私の弟だもの。今度はちゃんと見てる。リッキーと私がここにいるから。だからそいつを見て! あんたの足のとこに転がってるヤツをよく見て!!」
見下ろした。そうだ、こいつはセバスチャンだ。こいつに こいつに僕を殺されてたまるもんか。
「立て」
セバスチャンがニタニタ笑って見上げてくる。
「起こしてよ」
「立てよ。ちょうどいい。お前ともおさらばする。立て」
「1人じゃ立てない、君の手を貸して」
足がめり込む感覚が伝わってきた。こいつ、幻じゃない、実体だ…… 夢じゃないんだ、本物を蹴ったんだ。こいつは幻じゃない。目が覚めたような気がした。周りを見渡した。
リッキーがいる。祈るような手をしたシェリーがいる。いつでも飛び出そうとするタイラーがいる。遠巻きに何事かと見ている人たちがいる。携帯を手にした人がいる……
「立て。お巡りが来てからじゃ何も出来ない。立つまで蹴るからな」
1発、2発、セバスチャンが泣き始めた。か細い声で何か言ってるけど聞く気なんか無い。
「嫌なら、立て」
また蹴る。ようやく地面に手をついて、震えながら何か吐いた物を口から垂らしながらよろよろと立ち上がった。
正面から見た。
「黙れ」
何か言おうとしたから封じ込めた。
「喋ったら殺す」
唇がわなわな震えている。僕はしっかりとその顔を見た。
――目を背けたい…見るな……
――また壊れるぞ……『痛むぞ』……
心の中で騒ぐ声。
(黙れ。お前も黙るんだ。もうお前の声は聞かない。それは幻だけを見せる声だ。僕はもうお前のものじゃない)
もう一度後ろを振り返った。リッキーに頷いた。シェリーに頷いた。
「僕は、大丈夫だ」
体を戻しざま、拳を叩き込んだ。口から飛び散る赤い液体。
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