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「立て、もう一度。僕の気はまだ済んじゃいない。立て、殺すぞ」
「ゆるしてください ゆるしてください」
「その言葉が認められるのは相手に許す気がある時だけだ。立て」
泣きながら膝を立てたところを殴り倒した。
「立て、僕に向き合え」
口の下が真っ赤な血に染まっていた。もう立てないことは見て分った。そばに行って、胸倉を掴んだ。引きずり上げて拳を下ろす。
「フェル、もういいだろう? な? フェル」
どさっ、と足元に捨てた。空を見上げて空気を吸った。遠くからサイレンが聞こえる。
「リッキー、シェリー。帰ってくれ。タイラー、二人を頼む」
「どうする気なの!?」
「自首する」
「フェル! お前は何も……」
「傷害罪だ、僕のやったことは。逃げるつもりなんかない。だから行くんだ」
みんなに背を向けた。後ろから抱きしめられた。
「俺、残る。お前を独りなんかにしねぇ。お互いの前から消えちゃいけない、そう俺に約束させたろ? 俺を締め出すな、俺はお前の大事な飾りもんじゃねぇ」
「私も残る。もうあんたを独りにしない。ちゃんとそばにいる」
泣くつもりなんかなかった。でも僕は頬を拭っていた。やっと解放されるんだ そう思った。
リッキー、今なら心の底から分かるよ。恐怖から解放される恐怖ってあるんだな、お前が盗聴器を踏み潰した時のように。狂ったようにコンセントを壊し続けたように。
僕はこの恐怖を抱きしめるよ。こいつも僕のものなんだ。でも、僕はこいつのものじゃない。
「リッキー。シェリー。ありがとう。そばにいてくれ」
パトカーには僕一人が乗せられた。二人はタイラーの車で後ろからついて来た。大人しく手錠をかけられたから、パトカーの中には張り詰めた空気は無かった。
僕も心が静かだった。むしろすっきりしていた。体に付着していたネバネバを洗い落としたような、そんな気持ちだった。
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