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正面に警官が座った。
「さて、名前は?」
「フェリックス・ハワードです」
「年齢は?」
「20歳」
「未成年じゃないことを認めるね?」
「はい」
「住所と電話番号。仕事先、または学校。全部答えてくれるね?」
僕は一つ一つ、きちんと答えた。
「通報した人は君が一方的に暴力を振るったと言っている。認めるか?」
「いいえ」
「何もしてないと?」
「いえ、しました」
「何をした?」
「蹴って殴りました」
「彼はあのまま病院に運ばれたよ。かなりのケガを負った。それでも一方的じゃないと?」
「はい。一方的じゃありません。精神的苦痛を与えられました」
警官はペンを置いた。手を組んでまじまじと僕の顔を見た。
「君は……まじめそうだ。嘘をつくタイプには見えない。いったい何があった?」
「僕はあいつに、セバスチャンに襲われました。体をいいようにされました。だからケリをつけたんです」
「待っていてくれ」
しばらく僕を見ていた彼は、廊下に出て行った。
ほとんど身動きしなかった。苦痛が、僕の奥に蠢いていた。でもそれは幻。ファントムペインだ。正体を知っている。僕に『忘れるな』と事実を突きつけてくる痛み。
けれど戦う必要なんて、もう無い。後は受け入れるだけ。この痛みも僕のものだ、でも僕はこの痛みのものじゃない。
「待たせたね」
さっきの警官がまた座った。時計を見ると3時間が経っていた。
「君は告訴するか?」
「告訴?」
「そうだ、君が受けた傷害に対して告訴するか?」
(僕が告訴? セバスチャンは? 告訴されるのは僕じゃないのか?)
まるで心の声が聞こえたかのように返事があった。
「あっちは告訴しないそうだよ。彼はメンタル ホスピタルの患者だった」
メンタルホスピタル……精神病院にいたのか…… あの老紳士の姿が浮かぶ。
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