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「主治医の話で本人に判断能力が欠けているということが分かった。だから保護者に来てもらったよ。今回の事件について説明したんだが告訴しないということだ。というより、そもそも事件じゃないと。むしろ、君が告訴するつもりならどうか考え直してほしい そう言われたよ。告訴しても責任能力が無いから罪を問うことは出来ないだろうが、どうする?」
「僕の罪は?」
警官は眉を上げて僕に笑いかけた。
「さっきの話は私には自白とは聞こえなかった。君は『精神的苦痛を受けた』『だからケリをつけた』そう言った。これは正しいんだと思うよ。正直言ってね、軽微な犯罪に予算や署員を割くほど警察は暇じゃない。まして先方は告訴を嫌がっている。君に罪は生まれそうにないし、今後も生まれないだろう?」
僕は頷いた。もう僕の暴力の時代は終わった。そう思う、僕にはリッキーとシェリーがいる。
「そうか。君の婚約者とお姉さんも証言したよ。君の行った行為は暴力じゃなかったと。そして君が受けたのは暴力だったと。だから告訴するかどうか」
「示談が成立してます。それでも告訴出来るんですか?」
「『新たなる事実が発覚した』それは充分考慮に値すると思うよ」
考慮は要らない。考える必要も無かった。
「告訴、しません。アイツは今、罰を受けてる。僕も立ち直ることが出来た。
そういう意味ではアイツに会えて良かったと思います。もう会いたくありませんけどね」
警官は立ち上がった。差し出された右手を掴んだ。
「次は、ダメだぞ。いいな? もうこんな所に来るんじゃない。君はそういう人間じゃない。私の期待を裏切らないでくれ」
廊下に二人がいた。愛するリッキー。 愛するシェリー。
「帰ろう。全部終わった。本当に終わったんだ」
抱きついてきた二人を抱きしめ返す。腕の中の温もりが僕に安らぎをくれた。
「フェル、凄かったよ。事情、聞いた。俺なら立ち向かえない、けど娘に何かあったら俺はそいつを殺すと思う。だから君は偉いよ、よくあれで踏みとどまったな。その後の君の取った判断もとても真似出来ない」
タイラーの言葉が嬉しかった。支えてくれた二人の存在が嬉しかった。僕の中で一つの悪夢が終わった。もうアイツも怖くない。
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