18.お前のものになりたいから(第1部 END)

6/9
前へ
/55ページ
次へ
   もう一つ片づけておきたいことがあった。けれど、それはもう先手を打たれていた。  リッキーの動向を彼の祖父に知らせていたのは、ノラだった。彼女はそのためにこの大学に送り込まれた。情報を手っ取り早く手に入れるために酔っ払ってるリッキーに近づいた。  これは僕の推測だけど、多分彼女はリッキーと寝ている内に本気になってしまったんだ。だから別れ話を受け止めることが出来なかった。僕の家に連れて行ったことを報告することで、僕たちの間を何とか出来ると思ったんだろう。けど僕たちに何の変化も無かったから仕返しにリッキーを狙ったんだ。  情報提供者の名前を明かした時点で、彼女を退学させたんだと思う。彼はその行為で、僕に手を引いたことを知らせようとした、多分。  疑えばキリがない。他の人間を身辺に潜り込ませたら? またどこかに盗聴器をしかけたら?  ビクビクしながら暮らしてはいけない。僕らにはもうそんな暮らしは要らない。  引っ越しはほとんど手間がかからず終わった。  僕はたいしたものを持ってなかったし、リッキーは "裸のつきあい" の相手からもらったプレゼントを全部捨てた。リッキーも僕も、すっきりサバサバした引っ越しだった。  タイラー、レイ、チキン、たいして役に立たなかったロジャー、口うるさいばっかりのロイ。来てくれた気のいい連中。仕切ったシェリー。 「おい、あの二人ずいぶん仲いいな。お前より姉弟に見えるぞ?」 「小姑と上手くいってる方がいいって言うから、僕には有り難いよ」  すっかりシェリーにべったりになっているリッキー。最初の頃を思い出す。こういう二人の姿なんて、誰が想像できただろう。  みんなにランチを奢ったから、今週の日曜もバイトに行かなくちゃならない…… いや、当分休みは取れないかも。 「進級さ、二人、ヤバくない?」 「それさ、ロジャー、ニュースにする気か? 『婚約した二人、いちゃつき過ぎて落第!』とか」 「そんなことしないよ、フェル! シェリーに殺される!」 「私が何?」  真後ろに立っているシェリーを見て、ロジャーは飛び上がった。 「ぼ 僕は二人を心配してるだけだよ! 落第するんじゃないかって」 「そんなこと、私がさせないわよ」 「え、勉強、面倒見てくれんの!?」  嬉しそうなリッキーをシェリーは睨みつけた。 「あんた、そんな甘っちょろいこと考えてんの? 自力で何とかしなさい。私、フェルはちゃんと進級すると思ってる。だからリッキー、あんた、落第したら一緒に卒業出来ないわよ」  青ざめていくリッキー。 「そうなったらあんた、この寮に1人で残ることになるんだからね」  泣きだしそうなリッキーの背中を撫でた。 「心配するなよ、一緒に勉強しよう。お前だって本気出せば進級なんて軽いだろ?」  青ざめた顔が僕に コクン コクン と頷いた。 「俺、頑張る。フェルと一緒に卒業するんだ」 「卒業の前に進級してね、リッキー」  からかう声に真面目に首を振るリッキーが可愛くて、僕はその顎を掴んだ。唇を寄せる時にはもうシェリーの声が響いていた。 「バカバカしい。行くわよ、ロジャー。あんた、そのマヌケな顔晒して見てるつもり?」  キスは優しくて、僕はここがベッドの上じゃないことが残念だった。これから違う教室で講義を受ける。本当はキスで1時間過ごす方が嬉しいけど、諦めるしかない。  
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加