28人が本棚に入れています
本棚に追加
もう一つ片づけておきたいことがあった。けれど、それはもう先手を打たれていた。
リッキーの動向を彼の祖父に知らせていたのは、ノラだった。彼女はそのためにこの大学に送り込まれた。情報を手っ取り早く手に入れるために酔っ払ってるリッキーに近づいた。
これは僕の推測だけど、多分彼女はリッキーと寝ている内に本気になってしまったんだ。だから別れ話を受け止めることが出来なかった。僕の家に連れて行ったことを報告することで、僕たちの間を何とか出来ると思ったんだろう。けど僕たちに何の変化も無かったから仕返しにリッキーを狙ったんだ。
情報提供者の名前を明かした時点で、彼女を退学させたんだと思う。彼はその行為で、僕に手を引いたことを知らせようとした、多分。
疑えばキリがない。他の人間を身辺に潜り込ませたら? またどこかに盗聴器をしかけたら?
ビクビクしながら暮らしてはいけない。僕らにはもうそんな暮らしは要らない。
引っ越しはほとんど手間がかからず終わった。
僕はたいしたものを持ってなかったし、リッキーは "裸のつきあい" の相手からもらったプレゼントを全部捨てた。リッキーも僕も、すっきりサバサバした引っ越しだった。
タイラー、レイ、チキン、たいして役に立たなかったロジャー、口うるさいばっかりのロイ。来てくれた気のいい連中。仕切ったシェリー。
「おい、あの二人ずいぶん仲いいな。お前より姉弟に見えるぞ?」
「小姑と上手くいってる方がいいって言うから、僕には有り難いよ」
すっかりシェリーにべったりになっているリッキー。最初の頃を思い出す。こういう二人の姿なんて、誰が想像できただろう。
みんなにランチを奢ったから、今週の日曜もバイトに行かなくちゃならない…… いや、当分休みは取れないかも。
「進級さ、二人、ヤバくない?」
「それさ、ロジャー、ニュースにする気か? 『婚約した二人、いちゃつき過ぎて落第!』とか」
「そんなことしないよ、フェル! シェリーに殺される!」
「私が何?」
真後ろに立っているシェリーを見て、ロジャーは飛び上がった。
「ぼ 僕は二人を心配してるだけだよ! 落第するんじゃないかって」
「そんなこと、私がさせないわよ」
「え、勉強、面倒見てくれんの!?」
嬉しそうなリッキーをシェリーは睨みつけた。
「あんた、そんな甘っちょろいこと考えてんの? 自力で何とかしなさい。私、フェルはちゃんと進級すると思ってる。だからリッキー、あんた、落第したら一緒に卒業出来ないわよ」
青ざめていくリッキー。
「そうなったらあんた、この寮に1人で残ることになるんだからね」
泣きだしそうなリッキーの背中を撫でた。
「心配するなよ、一緒に勉強しよう。お前だって本気出せば進級なんて軽いだろ?」
青ざめた顔が僕に コクン コクン と頷いた。
「俺、頑張る。フェルと一緒に卒業するんだ」
「卒業の前に進級してね、リッキー」
からかう声に真面目に首を振るリッキーが可愛くて、僕はその顎を掴んだ。唇を寄せる時にはもうシェリーの声が響いていた。
「バカバカしい。行くわよ、ロジャー。あんた、そのマヌケな顔晒して見てるつもり?」
キスは優しくて、僕はここがベッドの上じゃないことが残念だった。これから違う教室で講義を受ける。本当はキスで1時間過ごす方が嬉しいけど、諦めるしかない。
最初のコメントを投稿しよう!