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結婚式をいつにするか。これで小さな諍いをした。リッキーはもう秋休みが近いからその時がいいと言うし、僕はここまで来たらリッキーの誕生日にしようと。
「そんなに待てない! 次、フェル何しでかすか分かんねぇ!!」
泣いて飛び出して行ったリッキーを追いかけようと廊下に出て、僕は溜息を付いた。
「フェル、アドバイス」
振り向くと隣の住人、ニールが面白そうな顔をして立っている。彼は可愛いアマンダの夫だ。
「飛び出されたり泣かれたりしたら謝るんだ、理由はどうでもいいから」
「なんで!」
「そういうもんなんだよ、夫婦が上手くいく秘訣ってのはさ。だいたい泣くとか出てくとかって卑怯だと思うよな。俺も最初の頃はそれでずいぶん失敗したよ。理不尽だと思うだろうけど、絶対謝らなきゃだめだ、出来れば花とか渡してさ。それからたっぷりと優しいキスをする。一番まずいのは真剣な顔して話し合うってことだからな。そんなの、後回しにしろよ。いいな」
妙なアドバイスをもらってリッキーを探し回った。前もそうだ。リッキーはケンカになると引っ叩いてくるタイプじゃない。厄介なことに、泣いて飛び出すんだ。
これで3度目。1度目は僕に好きだと告白した時。2度目は僕が誕生日を言わなかった時。
これって、飛び出されるほどのことなんだろうか? ホントは「いい加減にしろ」って言うつもりだったけど、ニールによると、それは絶対厳禁。
とにかくひたすら謝り倒せ。そう言われた。
どこに行ったんだろう……シェリーのとこは勘弁してほしかった。ケンカになるとシェリーは圧倒的にリッキー側につく。必ず説教食らうんだ。
なら、タイラー? チキン? 100歩譲ってロジャーならいいと思う。行ってない場合を考えてジャブ的な電話をすることにした。
「タイラー? 今何してる?」
「チキン? 今、何してる?」
「ロジャー? 今、何してる?」
空振り……仕方ない。
「シェリー? 今、何してる?」
「ラナが来てるの、電話かけて来ないで!」
……彼女が来てるんならリッキーがいるはずない。
「ごめん」
そう言った時には携帯は切られていた。
彼女? そうか……母さんの諦めた顔が浮かんだ。シェリーは女の子。僕はリッキー。双子揃って同性愛か…… ちょっと後ろめたくって、ごめんとは言わない と言ったことを少し後悔した。
その時携帯が震えた。
「レイ?」
『おい、勘弁してくれよ!』
小声だ。レイが小さい声で喋れるなんて初めて知った。
『泣いて走ってるリッキーを思わず掴んじゃったんだ。掴むんじゃなかったよ、そのまま通りで泣かれてえらい目にあった! みんな俺を睨みつけるし。頼むから夫婦喧嘩を俺んとこに持ち込むなよ!」
別に持ち込んじゃいない。こいつも理不尽だ。でも。
「悪い、今迎えに行くよ。どこに行けばいい?」
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