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「でも僕が持っている金額では足りないんじゃ……」
「内側にはお好きな言葉を彫らせていただけます。その料金を含みまして、1200ドル。サイズ調整が必要ならお1つにつき、20ドルを頂戴いたします。いかがなさいますか?」
「これにしよう」
僕らはほぼ同時に言っていた。店主がにっこり笑う。
「サイズを見てみましょう」
意外にリッキーの指は細くて、ダイアのついたリングを少し大きくしてもらえばいい。僕はもっと大きくしてもらわなくちゃならない。
「いつ頃出来ますか?」
確かサイズ直しは時間がかかると聞いていた。次に家に帰るまで無理かもしれない。
「今10時半ですね。サイズ直しだけなら3時には出来ますよ。内側に文字を彫るようでしたら……ちょっとお待ちください」
そう言って奥に入っていった。
「お待たせいたしました。夕方5時にはお渡し出来ます」
「そんなに早く?」
「実はデザイナーというのは、私の娘なんです。店に出すのはこれが初めてのリングです。だから金額を低く設定しています。それでもよろしいですか?」
こんなに有難い話はない。
「お願いします。5時に伺います」
「内側にはどう彫りますか?」
しばらく考えて僕は振り返った。
「リッキー、言葉、僕に任せてもらえる?」
「指輪もらえるだけで充分幸せだよ! 任せる、フェルに」
僕はペンとメモを借りた。
「これ、お願いしていいでしょうか。彼へのサプライズにしたいんです」
そこに書いた文字を見ると頷いてくれた。
「承知いたしました。大丈夫ですよ、ご対応出来ますから」
本当にこの店に来て良かった! これなら形だけの指輪じゃない。
夕方まで食事したり、リッキーは久し振りのボーリングを楽しんだり。指輪は僕と一緒に受け取るんだと、でれでれの顔をしてくれるのがとにかく嬉しかった。
5時過ぎて、その宝石店に戻った。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは若い女性。店主の言っていた娘さんなんだろう。
「あの、私のデザインした指輪をお買い求めのお客様ですか?」
「はい、エンゲージリングの加工をお願いしました」
「フェリックス・ハワード様 リチャード・ハワード様 ですね?」
「はい」
隣を見ると、これ以上ないほど真っ赤になってるリッキーがいた。
「はい りちゃーど・はわーど です」
――どうしよう
言う必要の無い返事をする『リチャード・ハワード』を僕は今ここでキスして押し倒したい……
まさか隣でそんな企みを抱かれてるとも知らず、リッキーはしまりのない笑顔を僕に向けた。
「ありがとうございます! 初めて出した品をその日に買っていただけるなんて……こちらです。サイズとデザインをお確かめください」
出された指輪を嵌めてみるとしっくりくるサイズだった。まるで指がリッキーに抱かれてるみたいだ……
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