弱くて強いヒーロー

1/1
前へ
/1ページ
次へ
まっすぐに果てしなく伸びる、長い旅路を独りで走っている途中、突然心に激痛が走り、苦しくなった。 誰かが僕の心に矢を突き刺したらしい。 太くていびつな矢は僕の心を壊した。 痛みで前に進めない 。 目は開いているのに何も見えない。 周りのみんなは僕を置いてどんどん先に行く。 誰も立ち止まってはくれない 僕は独りぼっちだ。もうダメだ。 そんな時、1人の小さな女の子が声をかけてきた。 大丈夫?誰がこんなひどい事をしたの。許せない。 女の子は僕より怒っていた。 わからない。もう僕は動けない。前に進みたくない。 僕がそう言うと女の子は、僕の背中にそっと手を置き、僕の隣に静かに座った。 何してるの、君は前に進まないとみんなに置いてかれてしまうよ。 僕がそう言っても女の子は動かなかった。 しばらくすると、心の痛みが和らぎ、僕は動けるようになった。でも、前には進みたくなかった。 女の子は、よし行こうと言い僕の手を掴んで半ば強引に走り出した。 僕はずっと下を向いていた。足取りは重かった。そんな僕の手を引き、懸命に走りながら女の子は言った。 前を向いてごらん。綺麗な景色が見えるから。 それでも僕は下を向いたまま走り続けた。 君に何がわかる。君みたいに強くはなれないよ。 僕は呟いた。 すると女の子は僕の手を離し、一人で先に行ってしまった。 見放された。また独りぼっちになった。 僕は下を向いたままその場に座り込んだ。 しばらくすると、僕の目の前が満開の花達で溢れた。先に行ったはずの女の子が、両手いっぱいの花を抱えて戻ってきたのだ。 見て。前に進めばこんなに綺麗な花がいっぱい咲いてるんだよ。だから、一緒に行こう。前を向いて行こう。 そう言うと、再び僕の手を掴んで走り始めた。僕はゆっくりと顔を上げた。 大胆に咲いた花。まだ蕾の花。枯れてしまった花。踏まれて潰れた花。空には輝く三日月。 見えていなかった世界がはっきり見えた。 どれも綺麗だった。 あぁまだ綺麗だと思える心が僕にはあった。 それがたまらなく嬉しかった。 ありがとう。君のおかげだよ そう女の子に声をかけようとした。 けれど、僕は言葉を失った。 僕の手を掴み懸命に走る女の子の心に、無数の矢が刺さっているのがわかったから。 誰がこんなことを!! 僕は涙が止まらなかった。 どうしたらいい。どうすればこの矢を抜いてあげられるんだ。 その答えはわからない。 僕は自分の無力さが悔しかった。 その時、女の子は突然振り返り僕に言った。 この矢はいつか、私の剣になる。 その顔はまるで覚悟を決め戦いに行く戦士のようだった。 僕はとっさに女の子の手を強く握った。 それなら、僕が盾になる。君に降りかかる矢から僕が君を守ると約束する。 でも、僕の盾を突き破って君に刺さる矢があるかもしれない。その時は、今度は僕が君の手を握って一緒に走るよ。真っ直ぐにしか進めない旅路の途中で、君が道に迷った時は、僕が君の道しるべになる。 そして、刺さった矢の痛みで君が立ち上がれない時は、僕がずっと君の側にいる。 君は強い人なんだって何度だって君に伝え続けるよ。 ありがとう。君は僕のヒーローだ。 真っ直ぐな長い旅路を、僕らは強く手を握り合い、並んで走り続ける。ただひたすらに。 心に矢は刺さったまま
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加