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まっすぐに果てしなく伸びる、長い旅路を独りで走っている途中、突然心に激痛が走り、苦しくなった。
誰かが僕の心に矢を突き刺したらしい。
太くていびつな矢は僕の心を壊した。
痛みで前に進めない 。
目は開いているのに何も見えない。
周りのみんなは僕を置いてどんどん先に行く。
誰も立ち止まってはくれない
僕は独りぼっちだ。もうダメだ。
そんな時、1人の小さな女の子が声をかけてきた。
大丈夫?誰がこんなひどい事をしたの。許せない。
女の子は僕より怒っていた。
わからない。もう僕は動けない。前に進みたくない。
僕がそう言うと女の子は、僕の背中にそっと手を置き、僕の隣に静かに座った。
何してるの、君は前に進まないとみんなに置いてかれてしまうよ。
僕がそう言っても女の子は動かなかった。
しばらくすると、心の痛みが和らぎ、僕は動けるようになった。でも、前には進みたくなかった。
女の子は、よし行こうと言い僕の手を掴んで半ば強引に走り出した。
僕はずっと下を向いていた。足取りは重かった。そんな僕の手を引き、懸命に走りながら女の子は言った。
前を向いてごらん。綺麗な景色が見えるから。
それでも僕は下を向いたまま走り続けた。
君に何がわかる。君みたいに強くはなれないよ。
僕は呟いた。
すると女の子は僕の手を離し、一人で先に行ってしまった。
見放された。また独りぼっちになった。
僕は下を向いたままその場に座り込んだ。
しばらくすると、僕の目の前が満開の花達で溢れた。先に行ったはずの女の子が、両手いっぱいの花を抱えて戻ってきたのだ。
見て。前に進めばこんなに綺麗な花がいっぱい咲いてるんだよ。だから、一緒に行こう。前を向いて行こう。
そう言うと、再び僕の手を掴んで走り始めた。僕はゆっくりと顔を上げた。
大胆に咲いた花。まだ蕾の花。枯れてしまった花。踏まれて潰れた花。空には輝く三日月。
見えていなかった世界がはっきり見えた。
どれも綺麗だった。
あぁまだ綺麗だと思える心が僕にはあった。
それがたまらなく嬉しかった。
ありがとう。君のおかげだよ
そう女の子に声をかけようとした。
けれど、僕は言葉を失った。
僕の手を掴み懸命に走る女の子の心に、無数の矢が刺さっているのがわかったから。
誰がこんなことを!!
僕は涙が止まらなかった。
どうしたらいい。どうすればこの矢を抜いてあげられるんだ。
その答えはわからない。
僕は自分の無力さが悔しかった。
その時、女の子は突然振り返り僕に言った。
この矢はいつか、私の剣になる。
その顔はまるで覚悟を決め戦いに行く戦士のようだった。
僕はとっさに女の子の手を強く握った。
それなら、僕が盾になる。君に降りかかる矢から僕が君を守ると約束する。
でも、僕の盾を突き破って君に刺さる矢があるかもしれない。その時は、今度は僕が君の手を握って一緒に走るよ。真っ直ぐにしか進めない旅路の途中で、君が道に迷った時は、僕が君の道しるべになる。
そして、刺さった矢の痛みで君が立ち上がれない時は、僕がずっと君の側にいる。
君は強い人なんだって何度だって君に伝え続けるよ。
ありがとう。君は僕のヒーローだ。
真っ直ぐな長い旅路を、僕らは強く手を握り合い、並んで走り続ける。ただひたすらに。
心に矢は刺さったまま
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