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口にしなくても
「そもそもさ、昔の女友達に会ってても文句言わない彼女なんてそうそういないよ。物凄く心の広い彼女じゃん」
「なんか、沙耶香は良いらしいよ」
「意識されてないな私」
本当はどう思ってるかなんて分からないけどね、なんて、私からは言わない。
「あのさあ」
陽が、ソファーから降りてそれを背もたれに床に座る。距離がぐっと近くなり、一瞬だが心臓が跳ねる。
なに?
問いかけるように、陽の顔を見る。背の高い陽の顔を見るには自然と首を傾げざるを得ない。
「俺と、付き合う?」
「は?」
「俺は好きだよ。沙耶香のこと」
「陽、サイテー」
「うん」
「もうその冗談は、飽きた」
はあと息をついて、五本目のビールを取りに行こうと立ち上がる。──はずだった。
陽の左手が、立ち上がろうと手をついた私の右手に覆い被さる。ああ、陽の手ってこんな感じだったっけ。昔一度だけ、まだお互いが若い頃だ。夫の浮気が発覚して離婚の決断をしたときに、泣き止まない私の手をこうして包み続けてくれていた。
今の陽の手は、その時よりも幾分か力強い。
「陽、どした?」
陽の顔が先程よりももっと近くにあって、なかなか顔をあげられない。
「ねえ、陽?」
再び呼ぶのと同時に、至近距離で目が合う。また、真面目な顔だ。
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