軸足

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 何度も何度も何度も繰り返した葛藤。夜な夜な、人知れず泣き暮らした日々。 「死んでやろうか」幾度となく脳裏をかすめたこの言葉。  そんな生活は、一枚の薄っぺらい紙であっさりと幕をおろした。  離婚の原因は、夫の浮気とモラハラだ。   「うわっ。お母さん、バズッてるじゃん」 「そうなの。嬉しいような、悲しいような」 「良いじゃん。ここから作品見てくれる人もいるかもしれないよ」 「まあねぇ……」  今年高校受験の莉子(りこ)が、ソファーの後ろから私のスマホ画面を覗きこんだ。 「あ、莉子。夜食用にフルーツ用意しておいたから、お腹すいたら食べな」 「まじ? ありがと」  話をすり替えようと話をふったわけだけれど、それほど気にはしていなかったようだ。あっさりと冷蔵庫に向かっていってしまった。  以前、夜食におにぎりを差し入れたら、年頃なんですけど──と、怒られてしまったのを思い出し、ひとり口角を上げる。 「さて。いつまでもスマホ眺めてないで、やることやっちゃうか」  ソファーに沈みっぱなしにしておいた腰をあげようとした、ちょうどそのときだ。インターフォンが、小気味良く鳴りひびく。 「あ、(よう)くんかも!」  先程までの表情を欠いた声とは一転し、弾んだ音声を残してリビングを後にした莉子は、足早に玄関へと向かう。 「開ける前に声かけてよー」  念のため声をかけると、「分かってる!」と、少しトゲのある声で返されてしまい、いつまでたっても気を焼いてしまう自分に溜め息をつく。 私の軸足は、今は梨子の側にあるようだ。  
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