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晴れ渡る空。絶好の草相撲日和です。
ぼちゃん!
大きめの蓮の葉の土俵がぷかりと浮かぶ小川に波紋が広がり、同時に真夏の空にけろ!けろ!と大歓声が上がります。
「それまで!東、トノ政の勝ち!」
巨体をいかした体当たりを得意とする、かえる相撲の横綱トノ政。
勝ち名乗りを受け、当然とばかりにげこげこと大きなお腹を叩いて観衆にアピール。
そして意地悪な目をして川の中に声をかけます。
「雨太郎よ、ちったあ頑張る様になったじゃねえか。
来月の大会にも出て来いよ。また川の中に叩き込んでやるからよ」
悔しそうに浮かんで来た雨太郎は頬を膨らませ、トノ政を睨み付けます。
彼らにとってプール付き豪邸であるこの小川のボスの座を賭けた相撲の勝負に、雨太郎は今回も負けてしまったのです。
「何だよその目は?
これまで通り俺様がこの小川の殿様だ、文句はねえよな?」
小さなかえる達の世界でも。
いいえ、だからこそ。
野生の世界は強さが全て。
男の勝負は言い訳無用。
「文句なんかない。俺の負けだ。
でも、次は勝つ!」
突き落とされた蓮の葉にびょこんと飛び上がり、悔し涙を指先の吸盤で拭う雨太郎。
その緑色の体は痩せっぽちで、縦にも横にもトノ政の半分もありません。
「ま、俺様のぶちかましを受け止められる様に精々練習するんだな。ほら出てった出てった!」
お腹を揺らしながらトノ政は雨太郎を追い払います。
雨太郎は再び川の中に、今度は自分から飛び込んで行きました。
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