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そして一人、修行に励む雨太郎。
草や花を相手に日本男児の魂、勇ましや。
気が付けば夜になっていました。まんまるい月がなんだかおいしそうです。
……トノ政に勝つなんて無理なのかなあ。
あの月を取ってくれ、と言う子供みたいなものかなあ。
かえると言えば強靱な脚が自慢。
それはもちろん相撲においても強力な武器となります。
しかし鍛えても鍛えても、トノ政は何しろ巨体です。そもそも種類が違うのですから。
両脚を恨めしげに見つめる雨太郎。
いや、無理なんてない。
もっと鍛えるんだ!
あの小川を取り返すんだ!
「雨ちゃん、そろそろ休んだ方がいいよ」
そこに誰かが声をかけます。ああ、この鈴が鳴る様な声は。
「カジカちゃん?どうしたのこんな時間に……」
かえる達のアイドル、歌姫カジカでした。
夜目にも白くてしなやかな脚に一瞬見とれる雨太郎ですが、すぐにバツが悪そうに顔を背けてしまいます。
「次こそ頑張ってね、私もアカちゃんも応援してるのよ。
トノ政はセクハラが酷いのよ、あんな大きな顔して早く俺の卵を産めとか言うんだから。
それに……」
カジカは言いかけた言葉をけろっと飲み込みました。
元々あの小川は雨太郎の故郷。長年住み慣れた場所。
しかし野生の世界では強さが全て。
自分にもっと力があれば……
小川を見る度に、見る度に雨太郎の胸は締め付けられるのでした。
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