38人が本棚に入れています
本棚に追加
そう。そのお爺さんはいつも一人でした。
他の人間は番いだったり、仲間と一緒にいたりするのに。
子供であれば村いっぱいに駈け回っていたりするのに。
いつも一人で寂しそう。
身に付けている衣服も、かえるの目からしても粗末でしたが。
お爺さんは花に鳥に風に月、あらゆるものを愛し、何かを学んでいる様にも見えました。
そして修行に励む雨太郎を見つけると必ず。
「──……!」
何となく、何となく雨太郎にも、人間の言葉が分かる様な。そんな気がしたのです。
もしかして、俺を応援してくれているのか、と。
ところが、一月も過ぎて相撲勝負が目前に迫ったある日。
お爺さんはぶんぶんと飛び回るハエを眺めているうちに、気付かずに蜂の警戒エリアに入ってしまったのです。
あっ、お爺さん危ないっ!
雨太郎は叫びましたが、人間にはけろけろと鳴き声が聞こえるだけ。
いきなり飛んできた蜂に驚いたお爺さんは足を滑らせ転倒してしまいました。
「………………」
そして雨太郎に何かをつぶやきながらよろよろと立ち上がり、帰って行きました。
大丈夫かなあ。
ハエは刺さないけど蜂は刺すからなあ。
刺されなくてよかったけど。
それからお爺さんは何処かを痛めたのか、雨太郎の修行を見学に来る事はなく、勝負の日はやって来ました。
さて、一方のトノ政は……
最初のコメントを投稿しよう!