プロローグ

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プロローグ

 五十年前、アンドロイドの個人所有は富裕層のステータスとされていた。  企業用アンドロイドが開発されたのは六十年前だ。見回り警備や事務のようなルーティン作業を行う《テンプレートアンドロイド》で、機能そのものよりも大幅な人件費削減と効率化による働き方改革として話題を呼んだ。  しかし一般家庭には普及しなかった。一体一千万円を超えることと家事のように日常で役立つ業務ができないこと、容姿がマネキンの域を出ないので観賞価値も見いだされなかったのだ。  十年経つと個人事務所のオーダーメイドによる《カスタマイズアンドロイド》が富裕層に流行した。  各自の好みに沿う開発が人気の理由だが、テンプレートが存在しないゼロベース開発のため企業用よりも高額だった。電気代もメンテナンス費用もかかるため、やはりこれも一般家庭には流通しなかった。  それでも富裕層は積極的にカスタマイズを行った。中でも競われたのは『動くマネキン』の域を脱する観賞価値の向上だ。  見目麗しい容姿の追求や歌やダンスといった特定の動作に特化したアンドロイドの開発だった。実用性に乏しいがエンターテインメント分野で活躍し、いつしか《エンターテインメントアンドロイド》と呼称が付き娯楽産業に革命をもたらした。  自身の開発したアンドロイドがメディアを賑わわせることこそが富裕層のステータスとなったのだ。  しかしそれも束の間、五年も経てばエンターテインメントアンドロイドを基盤とした量産型アンドロイドが開発された。  ある程度容姿が整っていて省エネが実現したため燃費も良く、メンテナンスも家電量販店で手軽に行えるようになった。量産型アンドロイドは百五十万円前後で購入可能になり、瞬く間に一般家庭へ普及した。  今では廃棄が多すぎて追いつかないという問題すら出るほどで、車を持つかアンドロイドを買うかという程度には身近な物になっている。
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