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「良い度胸だ。人事にそっくりそのまま伝えておおく。ちなみに人事評価は大学にも伝わるから就活に影響する」
「え⁉ ちょ、ちょっと待って! 無し! 今の無しで!」
「はい、じゃあインターンはオリエン。俺と顔合わせること無いから久世は帰ってもいいぞ」
「やります! やりますよ!」
こうして最悪のスタートを切ったインターンだったが、一週間経った頃には美咲も馴染んで穏やかな日々を送っていた。
それもそのはず、美咲に与えられた仕事は肉体労働同然の開発関連ではなかったからだ。
「この計測データにしといて」
「クライアントに挨拶いくからお土産用意しといてくれる?」
「ラボの電気切れてるから取り替えてもらえるかな」
「役員会の資料ホチキスしといて。二十部ね」
矢継ぎ早に開発第一の社員が美咲に雑用を頼んで行く。美咲の仕事は開発ではなく開発第一のアシスタントだったのだ。
よくよく採用通知のメールを見れば職種は明確に『開発アシスタント』と書いてあり、仕事内容は部品の発注だのデータ入力だのといった事務雑務だった。
「最初からそう言えばいいでしょーが!」
美咲はアンドロイドが流通したこのご時代に残っている紙の資料作成に苛立ち、力任せにバチバチと止めていく。
数十枚に及ぶ紙をホチキスで止めるのは思いのほか大変で先輩の女性社員、倉橋由香里が手伝ってくれている。倉橋も美咲と同じくアシスタントとしてインターンで入社したらしい。
「あんな嫌味言う必要あります⁉ 何なんですかあの人!」
「意味はあるんだよ、一応。何でアシスタントなんてインターンがあると思う? 普通はバイトとか派遣でしょこういうの」
「そうですよね。開発アシスタントって言って開発はしないですし。何でですか?」
「漆原さん目当ての子をふるいにかけてるんだよ。美作のバックオフィスと事務職に申し込んでくる女子のほとんどが漆原さん目当てなの。だから社員としての自覚は薄いし漆原さんに飽きたらパッと辞めちゃう。飲み会で一、二回顔合わせたら幻滅して即退職とかね」
「ああ、顔は良いけど顔しか良くないですもんね」
「あはは。そうそう。でも専門業務のインターンは条件を満たしてないといけないし将来かかってるから真面目にやるでしょ? それで事務業務インターンを始めたのね」
「はあ。てことは私は開発アシスタントで就職するかもしれないってことですか」
「そりゃそうだよ。え、嫌なの?」
「嫌っていうか」
業務の内容だけで考えれば嫌ではない。社員になれば事務以外にも仕事はあるだろうが、このインターンのために失ったものもある。
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