episode 02. 若き天才・漆原朔也

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(あれから一度もお母さんとお父さんの顔見てないんだよね。クソジジイは別にいいけど)  母とはしょっちゅう電話をするが、父は電話に出てすらくれない。母と電話してると後ろで祖父ぼ怒鳴る声がたまに聞こえるが、思いの外家族との距離は開いていた。 (このまま離散とかなったらさすがにな。しかもこんなクソみたいなインターンで)  追い出された時は怒りと漆原への憧れで乗り切っていた。それが全てで、この先に自分の将来があると本気で思っていた。  だが蓋を開ければバイトで事足りる事務仕事だ。こんな現状を家族に報告したら笑われるだけだし、家族と疎遠になってまでやりたい仕事ではなかった。 「大体何なんですかアシスタントインターンって。バイト雇えばいいじゃ無いです。なんですかね。いじめて気晴らし要員ですかね」 「そんなんじゃないって。あ、漆原さん! 漆原さんのせいで久世さんうちで働くの嫌になってますよ!」 「ちょ、ちょっ!」  倉橋が姿勢良く背を伸ばし手を上げると、見つけた漆原がぎろりと目を光らせて近づいて来た。 「根を上げるほど仕事してねえだろ」 「別に仕事が嫌なわけではないです……」 「俺の性格がメディアと違ったがっかりってか? まあ嫌なら就活しとけよ。どうせ俺んとこには入社できねえから」 「は⁉ こんな時期に長期インターンさせてそれはないんじゃないんですか⁉」 「決めたのは自分だろ。俺のせいにするな。それに運がよけりゃどっかの部署が拾ってくれんだろ」 「どっかってどうやってですか! インターンは部署固定じゃないですか! 無理じゃないですか!」 「お、良く気付いたな。その通りだ」  この調子で弄られ続けて今じゃ毎日この調子だ。アシスタントとはいえ完全に事務雑務で、漆原に興味が失せた今となっては開発第一にいる理由はもう分からない。何故置いてもらえているのかも分からなくなっている。  ここで根を上げるのは悔しくて意地のみでインターンを続けたが、安西を始め同期が目覚ましい活躍をする横でアルバイトで事足りる事務雑務しかしていないのは惨めで居心地も悪く、次第にインターンがストレスになるようになっていた。 (洗濯しなきゃな。夕飯は……作るのめんどいから出前……いやお金もったいないし食べなくてもいいかな……)  基本的な生活すら億劫になり、今日もとぼとぼとマンションに帰ると追い打ちをかけるように疲れる原因が登場した。 「お帰りなさい、管理人さん」 「……どうも」  笑顔で現れたのはボス――ゴミに厳しい例の女性だ。神経質なのかクレームを付けたいだけなのか知らないが、何かにつけてゴミの話をするので心の中ではゴミ番長と呼ぶことにした。 「何かありましたか」 「あれ気になって。アンドロイド」 「アンドロイド?」
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