episode 02. 若き天才・漆原朔也

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 一瞬何の話か思い出せず思考を巡らせた。インターンの疲労と苛立ちで忘れていたが、そういえば不法投棄されたアンドロイドを拾っていた。興味本位でしまい込んでいる。 「あ~……そういやそうでしたっけ~……」 「ちゃんとしてくださいよ。アンドロイド三大訴訟は巻き込まれたら厄介だし」  アンドロイドは時代のニューアイコンなどと言われる割に問題も多い。それが『アンドロイド三大訴訟』と総括されるのだが、アンドロイドは住民登録や住民税が必要だったり、個人所有でも家政型や護衛型のような職業型には給料が必要――という法律がある。  この手続きが非常に面倒で、個人商店を開くくらい複雑な手続きが必要で様々な管理者資格を取得する必要もある。  購入自体にも問題が多い。高性能であるが故に与える様々な影響を考慮し、法律で二十五歳以下は購入できない事になっている。だが実際は無法地帯だ。親が購入して子供に与えれば所有者は親なので違法ではない。  このように、販売元が実情を把握できず取り締まれないのが現状だ。この対策のためアンドロイド新法の制定が進められているが一進一退を繰り返している。その原因はアンドロイド人権問題だ。現時点でアンドロイドを含むロボットは形状に関わらず人権が無い。アンドロイドは家電扱いのため、首を切断しようが手足をもごうが法に触れる事は無い。アンドロイド関連の法律は問題を起こしたアンドロイドを罰する法ばかりで、彼らを守る法律というのは存在しないのだ。  新法制定をするのならアンドロイドに人権を持たせろという団体もそれなりに多い。人権を持たせないのなら、保険やら住民税やら人間同等の税金がかかるのはおかしいという意見もある。何しろ税金の合計額はおよそ毎月五十万円、職業型の高額機体は二百万円を超える物もある。アンドロイドはメンテナンス費用だけで毎月五十万円近くかかるし充電が必要なので電気代もかかる。 「誰かが持ち逃げしてるかもしれないじゃない? それって所有権とか面倒じゃない?」  アンドロイドに関する主な権利は自由権と労働権、そして所有権がある。  自由権はアンドロイドにどどれ程の自由を与えるか――ではなく『アンドロイドを自由に扱って良い悪いか』という意味だ。例えば購入者がアンドロイドで殺人ごっこをして破壊した場合これを良しとするかという事だ。現状の法律で言えば問題は無いが、それを見た人が気分を害して精神的被害を訴える場合があるため法改正が検討されている。  労働権は『アンドロイドに労働をさせて良いか悪いか』という意味だ。市販のアンドロイドには用途ごとに制約が定められている。例えば家政婦アンドロイドの用途は家事のため『収益を得てはならない』という規約がある。これはメーカーが国に提出している商品規定のため購入者も順守する必要があるのだが黙ってアルバイトをさせる人間が少なからずいる。これは確実に違法なのだが、近年一部例外が発生している。労働ではなくお手伝いだと言い張り、給料を金銭では無く物品で行うケースだ。これをされると違法ではなくなってしまい、そしてこれが最も発生しやすい問題で法改正が検討されている。  そして所有権。これは単純に誰がアンドロイドの所有者かという事で、主に共有財産で購入した夫婦間で発生する。離婚する時にどっちが持って行くかだ。遺産相続時にも見られ、世話をしていた人間が持って行く権利があるとか生活能力の有無だとか、そういうった論争が繰り広げられる。  こういった権利問題が非常に多く、いつしか『アンドロイド三大権利訴訟』と呼ばれるようになった。  購入よりも購入後の問題こそが富裕層以下の一般家庭に普及しない最大の要因だ。こんなのに巻き込まれたらたまったものではない。 「ちゃんとお願いしますよ」 「そうですね。はい。やっとくんで」 「早くね。今日中にですからね」
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