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episode 03. A―RGRY
今日はインターンの日だ。
美咲は社員がフロアに少ない隙を見計らってこそこそと漆原の席に向かう。
別にこそこそする必要はないのだが、用件が仕事に関係無いので他に聞かれたくはない。
「漆原さん。ちょっといいでしょうか……」
「異動希望出すなら辞めろ」
「違いますよ! ご相談がありまして」
「プライベートの連絡先は教えない」
「いりません! じゃなくて、うちのマンションでアンドロイド拾って困ってるんです!」
「警察行けよ。何で俺に言うの」
「それがですね……所有権がうちの母に移行してるから引き取れないとかなんとか……」
「は? マンションが母親名義ってこと?」
「はい……」
警察からつらつらと説明をされたのだが、なんでもアンドロイドの所有権問題対策として不法投棄に関しては細かに法律が定められているらしい。
所有者不明のアンドロイドが私有地で拾われた場合、一週間経過するとその土地の所有者もしくは管理者に所有権が移るという。
美咲が拾ってから一週間などとうに経過していて、アンドロイドの所有者は美咲の母親になってしまっていた。こうなると警察の関与するところではなく、しかも所有者ならば税金を払わなければいけない。
漆原は盛大にため息を吐いて肘をついた。
「何で拾ったその日に届けねえの?」
「ちょっと、まあ、ほら、個人開発っぽいから美作の一員としては気になりまして~……」
「どうせ売って金にしようとか思ったんだろ」
「う……」
「馬鹿すぎ。自業自得だ。今月分の税金払って廃棄しろ」
「えー⁉ 元の所有者探してもらえませんか⁉」
「何で俺が! 自分でやれよ!」
「分かんないですもん! それにほら! 多分レアだと思うんですよ! 研究の役に立つかも! すっごい綺麗な子なんですよ! ほら!」
何とか漆原の気を引こうと、美咲は撮影しておいたアンドロイドの写真を見せた。
関わりたくないという顔をする漆原の視界に入れようと、顔面間近にぐいぐいとスマホを突きつける。
「っだー! 分かった分かった! 見えねえから離れろ!」
漆原は渋々だが承諾してくれたので美咲は飛び跳ねてスマホを渡す。漆原は諦めながらも拾ったアンドロイドの写真を見てくれたが、突如顔色を変えて眉間にしわを寄せ真面目な顔をした。
「こいつは」
「分かります?」
「《A―RGRY》……!」
「えっ、紅茶飲めるんですかこの子」
「アホか! アンドロイド史勉強してねえのかお前は!」
「いたたたた!」
漆原につむじをぐりぐりと親指で押され、美咲はぺんっとその手を払って逃げた。
しかし漆原はそれには何も言わず真剣な顔でパソコンを開いた。素早い手つきでブラウザを立ち上げると何やらニュース記事を探し出した。探すこと数分、漆原は美咲にモニターを見るよう促す。
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