episode 03. A―RGRY

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「こいつは《Alife―Remedy Gene Resemble Youself》、略してA―RGRY」  モニターには壊れたアンドロイドと同じ顔をしたパッケージ商品が映っていた。  髪は購入者が好きに調整できるようロングヘアになっていて、服も飾り気のないどこでも売ってそうな白いカットソーとパンツだ。パッケージの段階で個性を付けすぎると購入対象者が狭まるため、敢えてシンプルな服装にされている。ディスプレイ用に整えられた機体はとても知的で爽やかな雰囲気で、女性モデルが腕を組んで歩く動画が広告になっていた。  しかし記事のタイトルはそれには似つかわしくない不穏な物だった。 「A―RGRYストーカー化で二百九十二名死亡⁉ 美作グループは購入者に返却を呼び掛けている……って、もしかして……」 「そう。こいつは《ラバーズ》初期型だ」  アンドロイドはパーソナルプログラムの種類で大きく三つに分かれる。  一つはパーソナルプログラムが存在しない《ニュートラル》だ。感情や個性が邪魔になるルーティンワークに活用される。   最も需要が高いのは家族になる目的の《ファミリア》だ。これは一般家庭よりも介護サービス企業に需要が多く、今最も注目されている分野でもある。  最後が《ラバーズ》だが、その名の通り恋人になることが目的とされている。一般家庭で最も需要の高い種だが、問題も多くどのメーカーも撤退している。現状続けているのは美作を含めて数社だ。 「ラバーズ初期型だと何か問題あるんですか?」 「あるよ。うちの社長の名前知ってるか?」 「何ですか突然。鷹司総一郎社長ですよね」 「そうだな。じゃあ先代社長は?」 「美作幸四郎」 「その通り。うちの社名は社長の苗字なわけだ。じゃあ何で今の社長は美作さんじゃないのか」 「世襲制じゃないから?」 「まあそうだけど、他にも理由があるんだよ。美作アンドロイド開発を率いた開発者の名前は?」 「藤井啓介博士ですよね。アンドロイドの父」 「そう。でも藤井博士は美作前社長の時に美作を離れて、鷹司社長になってから戻って来たんだ。その理由は知ってるか?」  A―RGRYと何の関係があるのかさっぱり見当もつかず、全く学んでこなかった美作の歴史に美咲は頭を悩ませた。  愛社精神のある真面目な社員なら知っているのかもしれないが、漆原目当ての美咲がそんな事を知っているわけもなく頭を下げた。
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