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思い返せば美咲が美作中央へ入学した時のひと悶着は相当なものだった。
始まりは父のちょっとした愚痴だった。自分が務めている会社なら入社に口利きができるのに、といつまでも言っていた。
それを聞きつけた祖父は激怒し別の大学へ行けと迫られたが、他の大学には落ちていたし別の大学を受け直すにしても申込どころか入試試験自体が終わっている頃でどうにもならなかった。仕方なく美作中央への入学が許可されたが、祖父からは父の会社への就職が条件として提示された。美咲は売り言葉に買い言葉で適当に頷いたような記憶がある。
「そういやそうだっけ。え? これそれなの?」
「そうよ~。でも大丈夫! お母さん準備できてるから!」
「何の? 家出の?」
「そうよ~!」
母は手に持っていた角1封筒をずいっと差し出してきた。中から出てきたのはマンションのパンフレットとカードキーだ。
「何これ」
「お母さんが管理してるマンションよ~。美咲ちゃんが追い出された時のために一部屋用意しておいたの~!」
「えっ⁉ ほんとに⁉ 家賃は⁉」
「いいわよぉ。元々は亡くなったお祖母ちゃまのマンションみたいなんだけど、アンドロイドも住めるようになってるからお祖父ちゃん大嫌いで」
「それで嫁に押し付けたってわけか」
「でもラッキーだったじゃな~い。けどアンドロイドよく分からなくて。家賃の代わり管理人やってほしいのよ~」
「全然やる! それくらい問題無し! 有難うお母さん!」
祖父のやりようには呆れたが、一人暮らしに憧れていた美咲にとっては有難いくらいだ。
そうして母からカードキーを受け取りマンションへ向かうと、海沿いで景色が良く十五階だから見晴らしも良い。間取りは八畳の1LDKと想像よりは遥かに広く、小さなパソコンデスクと布団が置いてある。他に家具は何もないが、一先ず過ごす分には問題無い。
「お母さんにしては準備万端。そんな前から追い出される気配があったなら教えといて欲しかったけど。ま、クソジジイいない方が心機一転できて良いや。やってやるんだからインターン!」
こうして美咲は念願の一人暮らしを始めた。インターンが始まるまでに生活を整え服を揃えておかなくてはいけない。引っ越しというのは初めてで水道だのガスだのと手続きが面倒だったが、それも明るい未来のためと思えば苦にならない。
家具が揃え一か月もするとまともな生活をできるようになってきたが、問題はどこでも起きるものだ。
「おはようございます。管理人さん」
「……おはようございます」
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