episode 02. 若き天才・漆原朔也

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episode 02. 若き天才・漆原朔也

 アンドロイド事業は赤字事業だ。  販売価格が高額のため、多少機能が向上した程度では買い替えてもらえない。それなのに開発は繊細で大量の試作が必要となり、その中から製品になる物はほぼない。  それでも開発研究を続けるのなら自社の他事業で利益を立てなくてはならないが、そんな挑戦をするくらいなら他の事業をやった方がはるかにましだ。  だからアンドロイド事業を主力事業にする企業は少ないのだが、そのトップに立つのが美作ホールディングスグループだ。  美作は多種多様な事業を展開し、アンドロイド事業はそのうちの一つにすぎない。そのおかげで他の企業に比べてアンドロイド事業に注力することができ、だからこそアンドロイドを確立できたといっても過言ではない。その結果、世界のアンドロイド出荷機数約三億二千万機のうち六割が美作グループ製品が占めている。  そんなアンドロイド最高峰企業のオフィスの一角に美咲は開発第一のインターン生として立っていた。それも希望通りに漆原朔也率いる解発第一グループだ。  麻衣子にはさんざん止められたが、それでも漆原とお近づきになりたいという欲望に勝てず当日を迎えた。  やるからにはやってやろうと服も新調した。インターンらしく嫌味の無い服装にしようと考えていたが、何かの雑誌で明るく清楚で上品なファッションが好きだと書いてあったので清楚をテーマに選んだ。好きな色が黄色らしいのでテーマカラーはもちろん黄色だ。  それでなくとも直々のスカウトだ。間違いなく好印象で勝ったも同然という気持ちでいると、ガチャリとドアが開かれ一人の青年が姿を現した。漆原朔也の登場だ。 (漆原朔也! うわ~。生の方がイケてる。むしろこの人がアンドロイドなのでは?)  漆原は整列しているインターンの前に立つと、後ろのデスクに寄りかかった。  インターンを一瞥する眼差しも凛として洗練された雰囲気はメディアでモデルをしている姿を彷彿とさせる。  全員緊張して漆原の言葉を待っていたが、漆原はあろうことか面倒くさそうに大きなため息を吐いた。 「マネージャーの漆原だ。俺から言うことは一つ。ハゲる前に辞めろ」  フロアはしんと静まり返り、インターン全員が黙った。 (え……歓迎じゃないの普通……)  漆原は興味無さそうに手元のタブレット端末をフリックしている。周囲の社員を見ても皆しれっとしていて、それどころかあくびをしている社員までいる。全員疲弊しきった顔をしていて、あちこち怪我をしている様子は業務の大変さをうかがえる。  脳内には麻衣子の渋い顔が浮かび不安に駆られたが、美咲以外のインターンも全員不安そうに顔を見合わせている。  だが漆原はインターンの心は置き去りにして話を進め始めた。
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