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episode 17. 予定調和の奇跡
あれから、美咲と祖母は久世の家に戻った。そのまま一人暮らしをしてても良いと祖母は言ってくれたが、せっかく戻って来た祖母と暮らしたくて戻る事にしたのだ。
それから一週間ほど経った今日、出勤していた美咲は呼ばれて漆原の個人ラボ行った。
「あー! 洸君綺麗になってる! 凄い!」
「当然。俺を誰だと思ってる」
「これならお祖母ちゃんも喜びますよ! 有難うございます!」
「どうだろうな。おそらく喜べない」
「何でですか? 綺麗じゃないですか」
漆原は珍しく困ったように笑い、そっと洸の髪を梳くように撫でた。
「ボディは直った。けどログとメモリ、こっちは復旧できなそうなんだ」
「……記憶が無くなるって事ですか!?」
「分からん。メモリに繋ぐ周辺パーツが熔解してて接続できないんだ。ここまで来たら解体して取り換えるしかない」
漆原はデスクトップパソコンのモニターをぐるりと美咲へ見せると、そこには図面が広がっていた。
図面のファイル名は洸の機種名である『Alife-Remedy Gene Resemble Yourself』となっている。
カチカチと図面を拡大し、大きく表示されたのは首の正面と後ろ部分だった。最新機種を始め、現在流通しているアンドロイドは皮膚に繋ぎ目など無いかのように人工皮膚が張り巡らされている。関節やアタッチメント換装部は多少残るものの、首は決して開いてはいけない繊細な個所のため強固にガードがされている。
しかしA―RGRYはかなり型が古いからか首の両脇にケーブルジャックがあり、しかも側面が全て開閉できるようになっていてくっきりと接合部分が見えている。これを隠すために非推奨ファッションであるハイネックの服を着せる人間が多く、熱がこもって熱暴走するケース少なからず報告された。
そして記憶回路となるメモリパーツが埋め込まれているのは首の中央という、なんとも取り出しにくい場所に封印されている。衣服や装飾品により熱がこもり続ければ内部から焼けていく事も多く、洸はまさにそれだった。
「他に方法無いんですか?」
「やるとしたら再起動だ。起動してエラーになればセキュリティコードに引っかかってリモート操作ができるようになる。そしたらこっちから取り出せるけど、エラーにならない場合がある」
「どんな場合ですか⁉」
「初期化だ。起動と同時に初期化が始まる」
「……記憶、全部無くなるんですよね」
「ああ。パーソナルも全部な」
美咲は洸の顔を覗き込むようにして床に膝を付いた。
目を瞑り口を横一文字にして、それは静かに眠っているだけに見える。それはまるで商品パッケージされるのを待つ新機種のように美しい。
「身を削って奇跡を起こしてくれたんだね……」
「奇跡? 何が?」
「私の所に来たじゃないですか。お祖母ちゃんと私を引き合わせたかったんです、この子」
「アホか」
「いたっ! 何ですか!」
漆原は呆れた顔でデコピンをしてきた。ため息を吐きながらノートパソコンのキーボードを叩いて何かの一覧を表示させると、それは洸に登録されている所有者情報だった。
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