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「じゃあ簡単に自己紹介して。安西君からどーぞ」
「はい! 安西和也です。美作第三アンドロイド大学大学院アンドロイドボディ開発学部です!」
安西が名乗った途端、フロア内の社員がざわついた。理由は安西の在学学部だ。
美作は若手の育成に力を入れていて、第三アンドロイド大学というのは若い才能を発掘すべく十年前に新設された大学だ。
美作グループの教育機関でも最高峰で、入学できればその時点で天才で一か月ごとの試験を全てパスしなければ進学できない。卒業できるのは二十人に一人いれば良い方なのだ。入学時点で本社への入社が確約されたといって良い。
「第三の安西ってあれだよな。NICOLA製作者」
「知ってて下さったんですか⁉」
「去年の美作合同文化祭で見たよ。今年の文化祭は?」
「リサイクルショーをやります! NICOLAで《リサイクルアンドロイド》の市場を確立します!」
「自信アリか。あれは企画書も良いし新規事業でイケるだろう」
まじか、と社員の誰かが呟いた。それにつられて他の社員も安西に視線を集中させている。
そんな人がトップバッターなんて次の人可哀そうだなと思わずにはいられない。だがそんな心配は無用だった。
「安東芳樹です。同じく第三のボディ開発です」
「ん? じゃあ同級生?」
「はい。同じ研究室です」
「優秀続きだな――…ん? 次も第三? 何、ここ全員同級生?」
「そうです。男七人、全員」
「へえ。今期は優秀だな」
フロア中がさらにざわついた。美作本社は第三の生徒を一人でも多く獲得することに必死だ。
それというのも卒業後必ずしも美作に入社してくれるとは限らないからだ。美作本社の開発、特にボディはブラックであることは周知の事実だ。優秀な生徒ほどブラック企業へ見切りをつけるのは早くて、美作勤務経験ありというネームバリューを得て他の企業へ移るか個人事務所を開く者が多い。
だがこれは各自の判断だからどうしようもない。ならばせめて母数を多く獲得し一人でも残ってもらおうという魂胆なのだ。
そんな内部事情はともかく、美咲の問題はこの流れで自己紹介をしなくてはいけないということだ。
「次は女子か。えーっと久世美咲? 『みさ』? みさきじゃなくて?」
「はい! 『みさき』と書いて『みさ』です!」
「ふーん。何で? 普通『みさき』だろ。分かりにくいな」
「……は?」
しーん、と空気が止まった。美咲以外のインターン生も驚いた顔をしている。
名前の読み間違いは美咲にとってデフォルトだ。いちいち目くじらを立てるような事でもないし、間違えてごめん、で終了すればいい。
(そんな嫌な言い方する必要ある……?)
憧れの人の失礼極まりない悪態に驚いたと同時にイラっとした。だがインターン初日で上司に噛みつくのが愚かだという事くらいは美咲にも分かる。
ぐっとこらえて引きつりながらも笑顔を作った。
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