episode 17. 予定調和の奇跡

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 登録者の欄には久世大河の名前があり、二十年ばかり前に情報更新がされている。  そして、ここ見ろ、と漆原が指差したのは所有者住所の欄だ。そこには藤堂小夜子邸の住所と、もう一件は美咲の住んでいたあのマンションの住所が入力されていた。  「こいつはお前の所に行ったんじゃない。自宅に帰ったんだよ」 「あそこはこの子の家じゃないですよ」 「登録されてるから家だよ。そこにたまたまお前がいただけで、お前がいなくてもあそこに行った」 「それならお祖母ちゃんの家に帰るのが普通です。でもわざわざあのマンションに来たのはやっぱり私に」 「ハイ、じゃあ問題。単独行動時にエネルギー切れが予測されるアンドロイドはどういう自立行動を取る?」 「登録されてる一番近い自宅かショップに行く――……」  アンドロイドは充電と内蔵バッテリーで稼働するが、当然それが尽きる時がある。  性能が上がるとともに一人で行動させられる事も増え、同時に外で充電が尽きて動けなくなるアンドロイドもいた。  それを防ぐため、付近に所有者がいない場合は常に稼働可能時間がカウントされる。現状の目的達成までに充電が足りないというアラート出るとアンドロイドは自宅、もしくはメンテナンスや充電が可能な施設へと自動で向かうようになっている。  洸の場合は登録されている二件の住所がそれに該当するのだ。 「充電切れそうな時に一番近かった自宅があのマンションだっただけ。以上」 「でも動画送ってくれたじゃないですか! 所有者の許可無くメール送信はできないはずです! きっと漆原さんが助けてくれるって思ったんですよ!」 「アホ! エラーが起きたらエラーアラートのメールが飛ぶんだよ! フェスの時あったろ!」 「へ?」  漆原はぺんっと美咲の頭を軽く叩くと、業務マニュアルとして渡されたセキュリティ関連のテキストデータをモニターに表示させた。そこには非常事態や緊急時対応がつらつらと書き出されている。  その中の項目に個人情報保護があり、漆原はそこをクリックして開いて見せた。 「個人情報漏洩に繋がるエラーが起きたらセキュリティシステム管理者にアラートが飛んでアンドロイドの保有データが転送される。メールが届いたのは俺個人じゃなくてセキュリティシステム管理本部のメーリングリスト。俺はその管理者だから正常フローだ!」 「セキュリティ……?」 「そうだよ。大体、奇跡なら他人の俺じゃなくてお前のとこに送るだろ」 「でも十年以上前のデータが残ってたって!」 「エラーだっつってんだろ。余分なデータ溜めたからメモリ焼けたんだよ。A-RGRYの回収理由は何だった? アンドロイド依存症じゃないぞ」
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