last episode 導かれた奇跡

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「大丈夫なんですか、美咲一人に任せて」 「大丈夫なようにやってますから」 「根回し済みですか」 「さすがに新卒だけで全部やらせたりしませんよ」  多くの部下を持つ男二人は目を合わせて笑った。準備万端問題無しではないが、新卒の仕事としてはまずまずだ。 「漆原さんには頭が上がりません。母と暮らせるのはあなたのおかげです」 「俺は責任者としてやるべき事をやっただけですよ。それにきっかけは俺でも美咲さんでもないですしね」 「美咲が言い出したんじゃないんですか?」 「言い出したのはそうですが、そもそもの始まりは奥様が大河さんの荷物を片付けたことです。あれがなければこんなうまく繋がらなかったはずです」 「ああ、たまたまですよそれは」 「そうですか? 長年触れなかった場所の片付けをたまたまやってたまたま大河さんを怒らせて、たまたま美咲さんが裕子博士の写真を見つけて、たまたま俺が手を貸す事になり、解決の場にたまたま洸の服を持って来ていた――ってなりますかね。どちらかというとA-RGRYを調べられる俺が美咲さんの上司だと知ったから行動に出たように見えます。それに十年以上もマンションの家賃が久世家に入ってない事に気付かないのも妙だ。とても偶然とは思えない」 「……香織が母の事を知っていたっていうんですか」 「俺には分かりません。でも家族円満になって依存症も鳴りを潜めたようですね」  漆原はカフェのソファ席に目をやった。つられて裕太も目を移すとそこではアンドロイド達と遊ぶ妻がいた。  初期化され別人になった洸を連れた裕太の母と、むすっとして全く楽しんでいないであろう裕太の父の姿もある。けれどその膝には猫型のロボットが寝そべっていて優しく撫でている。
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