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「美咲さんと裕子博士を繋いだのは洸だと思いますか?」
「それはまあ、そうだと思いますよ」
「俺はそうは思いません。壊れたアンドロイドは動かない。動いたように見えたのは美咲さんが動かしたからです。感謝すべきは俺じゃありませんよ」
「……でもお礼を言わせて下さい。美咲が動けたのはあなたのおかげですから」
「それはまあ、上司ですから」
「有難う御座います。これからも美咲をよろしくお願いします」
「こちらこそ」
会社としても、と漆原と裕太はがっしりと握手を交わした。するとその時、ホールにいた美咲が駆け寄ってきた。
「漆原さーん。お客さんがこのアロマと同じの欲しいって言ってるんですけどどこのですか? 漆原さんのベッドルームのと同じですか?」
「違う。これはスポンサーから貰ったんだよ」
ソファ席にはほのかにオレンジの香りが漂っている。アロマは好みが分かれるけれど女性の食い付きは良いだろうと、プレオープンで試してみようと設置したのだ。
メーカーを確かめようとアロマのボトルを取り出したが、その腕と美咲の腕を掴んだのは裕太だった。
「美咲。何故彼のベッドルームを知っている」
「あー、前泊まった時に」
「おい! 馬鹿!」
「え? あー……でもほら、もう一年も前の話だし」
「何だと⁉ じゃあインターンの頃か⁉」
「え、あ」
しまった、と美咲は口をぱむっと押さえた。馬鹿、と漆原はため息を吐いてくるりと裕太に背を向けた。
「む。お客様がお呼びだ。俺は行く」
「あ、私も~」
「おい! 待て! 待ちなさい!」
「お父さん。今営業中だから静かにしてね」
「待ちなさい! 美咲!」
美咲と漆原は逃げるように客席へ駆けこんで、裕太が帰る時間まで接客に徹していた。
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