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2 トオル視点
午後三時頃、山岳部員たちは薬碁岳頂上に無事到着した。風が強く、ガスもあったため、彼らは登頂すると早々に下山を開始し、午後五時頃、山の中腹にあるキャンプ地点に到着した。
既に辺りは薄暗くなっている。キャンプ地は平坦な地形をしていて、周囲には森が茂っていた。深く積もった雪の上に、男性用テントと女性用テントを張り、それぞれ中に入る。
「すまん、俺タバコ吸ってくる」ようやくテントの中が暖まってきた頃になって、北斗が立ち上がった。
「べつに良いですよ、テントの中で吸っても」宗介が言う。
「いや、大丈夫。未来ある若者に副流煙を吸わせるわけにはいかん」
「北斗先輩も、いちおう未来ある若者なんすけどね~」
北斗は片手を上げると、テントの外へ出て行った。
「あ、オレもちょっと外に出てくる」宗介が立ち上がりながら言った。
「僕もついていくよ」トオルが言う。
「いや、ほんとにちょっとだから、いいよ。景色の写真撮りたいだけ」
「あっそう」
宗介がテントから出ていってから、トオルは荷物を持って女性用テントへと向かった。
テントの前で「トオルです」と言うと、登美の「はぁい」という返事が聞こえてきたので、彼は中に入った。
「遊びにきました」トオルが言う。
「はいはい、いらっしゃい」登美が首を傾げた。「北斗は?」
「煙草です」
「あ? あの野郎……、また吸ってんのか」登美は眉間に皺を寄せた。「あ、ダメダメ、ふぅ。……最近ね、あたし、眉間に力を入れ過ぎて、痕が出来かけてるのよね。ほら、見える?」
「うーん、あんまり。……そんなに気にすることですかね」
「宗介君は?」テントの奥で文庫本を読んでいるマリが尋ねた。
「あ、えっと、景色の写真を撮りに行きました。あとでお酒持ってくるみたいです」
「そう」マリは顔を上げてこちらを見た。「お酒ね、本当は飲んでほしくないけどな。危ないよ、山登りにきてるんだから」
「大丈夫、そんな派手に飲まないから」登美は微笑んだ。
しばらく談笑していると、ビールを持った宗介がテントに入ってきた。
「お待たせ」宗介はキョトンとしている。「あら、北斗先輩、まだ来てないんすか」
「そういえば遅いね」トオルが呟く。「煙草吸うだけにしては」
「本当、禁煙するって約束してるのに」登美が口を尖らせた。
「まぁまぁ、北斗先輩も、辞めようと努力はしているみたいですから」宗介が苦笑する。「ほんとラブラブですよね、先輩方は。正直、見てて恥ずかしくなってきますよ。登山中もですね、休憩があるたびに、チラチラチラチラ、チラチラと! 何度も何度もペンダントを眺めるんですよ、北斗先輩」
「ペンダントって、登美先輩の贈り物だっけ?」トオルが尋ねる
「そうそう」宗介が頷く。「たぶん、そのうち、目に入れても痛くないか試しますよ、アレ」
トオルはチラリ、と登美の顔を伺った。彼女は顔を赤くして俯いている。
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