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3 宗介視点
その後、三十分ほど四人で遊んでいたが、未だに北斗は帰ってきていない。
「北斗、どうしたのかしら……。電話にも出ないし……」登美が不安そうな声で言う。
「うーん、確かに遅いですよね。煙草吸いに行っただけにしては」宗介が腕を組んだ。
「大丈夫かなぁ……」登美が呟く。
「僕、モバイルバッテリー取りに隣のテントに行ってくる」
そう言うとトオルはテントから出て行った。
「うーわ、このあと吹雪になるかもしれないっぽいっすよ」宗介は携帯端末を操作しながら溜息をついた。「うーん、少し天気が崩れるのは知ってましたが、ここまでとは……。今のうちに下山したほうがいいかもしれないですね」
「……あと三十分して北斗が帰ってこないなら、あたし、救助隊に連絡する」登美が言った。
「……ええ、マジすか?」
「……」
そのとき、
突然、男の叫び声が聞こえた。
くぐもった低い声だった。
宗介は、登美と目を合わせた。
彼女は眉間に皺を寄せている。
「……なに、今の」登美が呟いた。「なんか、トオル君の声に似てなかった?」
「……」
宗介は無言で立ち上がると、テントのチャックを開けて外に出た。
辺りが真っ暗だったので、携帯端末のライト機能を使って足元を照らす。
雪が反射して眩しい。
後ろから登美とマリがついてきている。
少し歩くと、赤いテントが見えた。
チャックを開けて、中を覗くと、真っ暗だった。
ライトで中を照らす。
すると、そこには仰向けで倒れているトオルの姿があった。
腹部に赤い染みがあり、手前にナイフが落ちている。
「トオル君!?」
早坂がテントに入ろうとしたので、宗介は反射的にそれを阻止した。
「先輩、落ち着いてください」
三人は、しばらく動けなかった。
ややあって、マリがしゃがみこみ、無言でトオルの左手首に触れた。
「……駄目」マリは首を振った。「死んでる」
「……いやいや、なんなの、これ?」登美は笑みを引きつらせている。
「マリ先輩、医学生でしょう? なんとか、ならないんですか?」宗介が言う。
「こんなの専門じゃないから無理だよ。そもそも、医療道具なんて無いし」
宗介はマリから視線を外すと、周りを見渡した。
辺りの雪には、無数の足跡があって、どれが誰の痕跡なのか判別できない。
彼は溜息をつくと、空を見上げた。
星がはっきり見える。
空気が澄んでいるのだ。
白い息が広がり、消えていく。
そして、消えたものは、二度と元に戻らない。
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