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4 登美視点
登美とマリは、女性用テントで静かに待っていた。
しばらくすると、宗介がテントの中に入ってきた。
「とりあえず、あっちのテントは片付けてきました。……あと、トオルの遺体は、寝袋につめて雪の上に置いてあります」
「ありがとう、宗介君」登美は大きな溜息をついた。「警察には、あたしが連絡したわ。それと、煙草を吸いに出かけたまま帰ってこない北斗のことも、伝えた。でも、その……、これから雪が強くなるみたいで、救助隊は来られないみたい。テントから出るなって言われた」
三人は、少し黙った。
沈黙を破ったのは、宗介だった。
「……あの、誰がトオルを殺したのでしょうか。状況がよくわからないのですが、登美先輩は、何か考えていますか?」
「外部犯。それ以外に無いでしょ? 頭のおかしい奴が、通り魔のようにトオル君を刺して、逃げたの」
「通り魔っつったって、ここ雪山の中腹ですよ? わざわざ無関係な人を殺すために、こんなところまで来るなんて、ちょっとオレには信じられないんですけど」
「知らないよ。頭がおかしい奴なら、ありえるんじゃないの?」
「オレは……、オレは、北斗先輩が犯人だと考えています」
「は?」
一瞬、テントの中の空気が止まった。
宗介は俯いている。
「……この雪山で、トオルを殺す動機を持つのは、T大学山岳部の部員だけです。そして、オレ、登美先輩、マリ先輩は、トオルが殺されたとき、テントの中に居ました。つまり、北斗先輩以外に、トオルを殺すことは出来ないんですよ」
「ちょっとちょっと」登美は笑った。「トオル君を殺す動機って……、あたしたちにあるわけないじゃない。ましてや、北斗は、いま遭難中で……」
「じつは遭難していると見せかけて、どこかに潜んでいるのでは? 今も、オレたちの命を狙っているかもしれない」
「宗介君さぁ……、ちょっと……。いい加減にしてくれる? ねえ、どうしてそんなことを言うの?」
「トオルはオレの親友です。高校生のときから、ずっと一緒だったんです。絶対に許せない……。殺人鬼は、必ずオレが突き止めてやる!」
「二人とも、落ち着いてください」マリが静かに言った。「探偵ごっこをするより、考えなければいけないことがあります。どうすれば、私たちは安全に下山をすることができるのか、それを考えましょう」
登美は深呼吸をした。「ごめん、そうよね。とりあえず、動くなって言われてるんだから、今日はテントで一泊するしかないと思う。宗介君も、このテントで寝て。ひとりになると危ないから」
宗介とマリは、力強く頷いた。
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