7 宗介視点

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7 宗介視点

 ふと腕時計を確認すると、時刻は午前三時だった。  知らない間に、二時間以上も歩き続けていたようだ。  雪を踏む感触が心地いい。  やっぱり、登山って楽しいな。  そう心の中で呟いて、宗介(そうすけ)は思わず吹き出した。  こんなときに、いったい何を考えているのか。  可笑しな奴……。  友人を三人も殺しておいて、どうしてこれほど平然としてられるのか、不思議だ。  過去、何人かの女性と交際をしたことのある宗介(そうすけ)だが、登美(とみ)の存在は特別だった。彼は、生まれて初めて、心から恋をした。  だから、登美(とみ)北斗(ほくと)と交際していることを知ったときは、心底落ち込んだし、猛烈に彼に嫉妬した。  そして、先日、煙草を吸いにテントから出ていった北斗(ほくと)と会った宗介(そうすけ)は、彼からサプライズの計画を相談された。  大したことではない。血糊を掌に付けて、北斗(ほくと)が「手を怪我した」と登美(とみ)に報告する。掌の中には婚約指輪を忍ばせておいて、治療をするために手を確認した登美(とみ)を驚かせよう、というもの。  その計画を耳にした瞬間、日頃から北斗(ほくと)へ憤りを募らせていた宗介(そうすけ)は、頭の中が真っ白になった。  気が付くと、宗介(そうすけ)は、北斗(ほくと)の首をナイフで切り、彼を谷底へと突き落としていた。    宗介(そうすけ)は、しばらく、呆然とその場で立ち尽くしていた。  少し経って、言い逃れる方法を考え始めた。  北斗(ほくと)が足を滑らせて滑落し、死んだ、と報告するのはどうか。  いや、彼の首には刺傷があるのだ。すぐにバレる。  そして、宗介(そうすけ)は血糊を利用したトリックを思いついた。それは、トオルの腹部に血糊をつけて、死んだように見せかける、という単純なもの。  このトリックには、トオルとマリの協力が不可欠だった。なので、二人には、「北斗(ほくと)先輩の考えた余興」と伝えた。トオルはあっさり信じたようで、潔く協力してくれたが、マリは明らかに疑っていたので、仕方なく脅した。協力しなければ殺す、と。  腹部に血糊のついたトオルを、宗介(そうすけ)登美(とみ)、マリの三人で確認したのち、宗介(そうすけ)はトオルとマリを刺し殺した。  あとは、自分の無実を証明してくれる人、登美(とみ)を連れて、下山するだけ。  そうすれば、トリックにより、一連の殺人はとち狂った北斗(ほくと)の仕業となり、最期に彼は自分の喉をナイフで刺し、自決したのだと警察は判断するはずだ。  粗の多い計画である。  よく実行する気になったな、と我ながら呆れる。  おそらく、北斗(ほくと)を殺した時点で、自暴自棄になっていたというか、一種の錯乱状態になっていたのだと思う。  でも、結果的に上手くいった。  そして、幸運にも、激しく雪が降っている。  足跡や指紋、血痕などの状況証拠は、雪に埋もれて消滅するだろう。  そう、雪が降り積もっていき……、  すべては、無かったことになる──。
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