28 あの日、寄り添ってくれたのは (本條)

1/1
前へ
/30ページ
次へ

28 あの日、寄り添ってくれたのは (本條)

風祭? そうだな…、初めて見た時は、綺麗な顔して無愛想な奴って程度だったんだけどな。 何でこんな事になったのか、自分でも不思議だよ。 俺のタイプど真ん中は、泰みたいな、見た目からして大人しそうで庇護欲を唆られる感じの子。 何でそう行き着いたか? 単純に、その方が遊んでないだろうな、って。 やっぱ見た目に気を配ってる子は人目を意識してるだろ?特に容姿が良い子って、男女問わずナルシストの気があるしね。俺含め。 だから見た目はソコソコなら良い。無頓着でも、最低限の清潔感さえあれば良い。 かといって、綺麗な人間が嫌いって訳じゃないから、誘われれば遊んだ。 只、自分の容姿が良いのを知ってるのは良いけど、あざとい利用の仕方を知ってる子は可愛くない。メイクや香水臭いのは言語道断。自然が良い。 それで、見た目に反して少し気が強いくらいが良い。 それでいくと泰は最高だった。 頭の回転が良いから話をしても楽しいし、何時も仄かにいい匂いがして、肌もすべすべで抱き心地が良くて。 余計なものを付着させてない、洗いざらしの木綿のシャツが似合う、少年みたいな。取り巻く空気がキラキラしてて浄化されそうな。 俺の恋人だったヤスは、そんな子だったよ。 ヤスを連れ去られてしまった。 正しくは、奪い返された、かな。 とはいえ、ヤスは別に誰の所有物でもない一個人な訳だけど、こと恋愛となると何故か所有権を主張したくなるじゃないか、人って。 ほんの2時間前にはこの腕の中に閉じ込めていたのに、突風みたいに来た王子様が連れていってしまった。 やっぱり物語の結末は、正統派の王子に軍配が上がるもんなんだな。 俺みたいな悪役じゃないんだ、絶対に。 「何で、さっき僕を庇ったんだ?」 わざわざ引き返して来て迄聞く事?笑っちゃったよ。 本当、馬鹿正直というか、何と言うか。 そういう意味ではこの犬と泰は少し似ているかもしれない。 見た目は全く逆だけどな。 黙ってりゃ、俺だけを悪者に出来て、この先もずっとヤスの傍にいる事を許されただろうに。恋人は…王子がいるから無理だろうけど、友人か犬コロポジなら多分大丈夫だった筈だ。 それなのに、わざわざ自分であんな事。 馬鹿だな、お前さては駄犬だな。 俺を憐れみに戻って来たのかと思ってたら、顔を見たら情けない顔をしてて、あぁ、コイツも諦めたんだな、ってわかった。 その後直ぐに泣き出したから、少し驚いたな。 あんまりにも、綺麗で。 重ねて言うけど、俺は別に綺麗な人間が嫌いな訳じゃない。 素朴なのが、よりタイプってだけで。 だから犬…風祭の静謐な泣き方は美しいと素直に思ったし、少し心が騒いだのも認める。 だからといって、そんな美しさだけが 失恋してズタズタになった心に響いた訳じゃない。 大事なのは、その後だった。 「初恋だったんだ。」 「初めての友達で、初めて好きになった人なんだ。 だから、守るのに必死になっちゃったのかな。」 出来るだけ抑えられたとは思うけど、内心、すっごい驚いた。 だって、俺は犬って言ってるけど、風祭の顔ってかなりの美形だから。 なのに、全然人を寄せ付けないよな、って不思議な気はしてた。 泰と居ない時は1人でいるのしか見た事無かったから。人嫌いなのかな、と感じた事もあった。 でも、流石にそんなツラしといて、初恋も友達も泰が初めてって…。嘘だろ?って思った。 俺含め、俺が知ってるあのレベルの顔を持つ人間は、男女共にそれなりには遊んでたから。 それで、自分の容姿で他人を良いように操れる事を覚えてきた連中ばっかりだったよ。 だから、お互い遊び相手にしかならない。 それが俺の、容姿の良い人間に対する認識だったんだ。偏ってる?だって実際、俺の周囲はそうだったんだから仕方ないだろ。 俺だって、ほんの赤んぼの頃から、自分が要領良く、愛想良く振る舞えば 皆に優しくされるのを知ってたんだから。 それなのにこの風祭というやたらめったら綺麗な男は、泰が初恋なんだと泣いた。 これだけの容姿を持ちながら、コイツはどういう人生を送ってきたんだろう。 風祭の涙は純粋で、初めての友達だったという吐露は俺の胸を打った。 ほんの少し前までその辺の連中と変わらない、泰の金魚の糞か犬にしか思えなかったのが、急に見方が変わった。 少し幼くて壊れやすい、純粋で一途な心を持った人。 一途が過ぎて、初めてできた大切なものを守る為に必死になって俺に捨て身で食ってかかって来たのか…。 そう思ったら、何だかコイツが凄く可愛い人間に思えて仕方なくなった。 いや、だからって、それが即、恋愛に結びついた訳じゃない。 だって失恋当日だよ。流石にそこ迄節操無しじゃない。(苦笑) でも、それからかなぁ。 顔を合わせたら挨拶くらいはするようになって、たまには一緒に飯を食うようになって。 意外に良い話し相手になってくれて、アイツのお陰で、辛さが紛れた所はあるかな。 アイツ、変な奴でさ。俺に迄罪悪感感じてるみたいなんだよ。 ツンとした顔してお人好しなんだよな。 最近じゃ一緒に映画観に行ったり、ウチに来て観たり。泰があんな目に遭ってるの見といて危機感ねえの?って聞いたら、僕はお前の好みじゃないだろ、だって。笑 風祭にとっては、俺は人生2人目の友達って事になるんだろうな、多分。 今の所、色事抜きの清らかなお友達付き合いしてるよ。 でもさ。 風祭には前科があるだろ? 大事なお友達の、泰を好きになったっていう前科がさ。 その内俺の事も意識し出すと思ってる。時間の問題だろ。 だってその為に俺は今、努力中なんだからさ。 それに風祭は誰かと恋人付き合いした事も無いと言う。つまり、童貞…処女って事だろ? 今度は失敗しないように慎重に進めないと…。 この俺が、セフレも抱かずに清らかに暮らしてるんだぞ。もう何ヶ月だよ、この状況。笑 その上で、とにかく優しくしてる。 全部風祭優先で生きてるよ。 周りも、俺がつるんでるのが風祭だって認識すると、全然俺に声をかけて来なくなってさ。 太刀打ち出来ないと思うんだろうな。 ま、俺は顔で好きになった訳じゃないけど、今じゃミス・ユニバースも裸足で逃げ出すような風祭の顔が大好きだよ。 ヤスの事は勿論好きだよ。でももう、以前みたいな激しい感情は無いな。 と言っても、顔見ればやっぱ可愛いなと思うけど…でもま、あっちはあっちで幸せそうならもう良いかなって思う。 あんな事があっても敢えて普通に接してくれるヤスの優しさと強さに報いる為に、次こそは間違えないようにしないとな、って思ってる。 俺も風祭と似たり寄ったりで、まともな人間関係の構築が苦手だからな。 でも今度は、お互いが幸せになれる関係を築いてみせるよ。 少しずつ、ゆっくり。 そういや風祭って、お姫様って表現ピッタリだと思うんだけど、どう思う?
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1093人が本棚に入れています
本棚に追加