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祖父
私は市立霊園に当選した事を、帰宅後すぐに線香を焚き、妻に報告した。
ふと、その時に思った事がある。
私の父方の祖父は私が生まれる前に、祖母をリウマチで亡くしていた。
祖父は私が20歳になるまで生きていたのだが、生前、毎日仏壇の前に座ってお経を唱えていた。
朝、昼、夕方。毎日3回欠かさず。
私はずっと祖父は熱心な仏教徒なんだとばかり思っていた。
確かにそれもあるのだろう。
だが最近、祖父の気持ちが分かるような気がするのだ。
妻の遺影の前に座り、今日あった出来事を報告する。
寝るまでは線香をなるべく消えないように、常に焚いておく。
買い物ついでに、妻の好きだったお茶やお菓子などを見つけると買ってお供えをする。
花の水を毎日入れ替えて、少しでも傷んできたらすぐに新しい花を飾る。
私がそうやって何気なくしている事。
それは私がその瞬間だけは、妻と話せている気がするからなのだ。
線香を焚いたり、お供えをしたり、花を飾ったりするたびに、妻の優しい声で
『ありがとう』
と、聞こえる気がしてならない。
だから自然と、私は毎日の日課のように自然としてしまう。
祖父もそうだったのではないだろうか。
仏壇の前に座り、1時間もお経を唱えるのだ。
きっとその時間、祖父は祖母と話せているような感覚になり、祖母に色んな事を報告していたのではないだろうか。
私は最近、そんな気がしてならない。
祖父と私。同じように妻が先に旅立ったから分かる心理。心境。
今なら祖父が毎日3回もお経を唱えていた気持ちが分かる。
そうか。祖父も寂しかったのかと。
今は祖母とも会えて、楽しい時間を過ごせている事だろう。
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