36人が本棚に入れています
本棚に追加
未読
稀に。ごく稀に。
妻にメッセージを送る事がある。
緑色のSNS。妻とよくやり取りをしたものだ。
妻はアザラシのスタンプが好きだった為、私はよくそれを使っていた。
今でもそのスタンプは残っている。
このSNSを使う頻度は、妻が旅立ってから一気に減った。
私はいまだに妻の連絡先を登録したままにしている。
これは削除する事が出来ない。
きっと新しい携帯電話に機種変更しても、一番に妻の電話番号を登録するだろう。
今では誰も使っていない番号。
いつかは皆が忘れてしまうのだろう。
だからこそ私は、私だけは妻の電話番号を覚えていたい。登録していたいのだ。
忘れる事が出来ない。
何度もこの番号に電話をし、何度もこの番号から着信があった。
その番号をいとも簡単に忘れる事など出来るだろうか。
電話番号を登録している以上、緑色のSNSには妻が友達として表示されている。
もう私がそこにメッセージを送っても、決して既読にはならない。
未読のままである。
でもどこかで、ここにメッセージを送る事で、妻に伝わるような気がしてならない。
『誕生日おめでとう』
『今日、子供のお遊戯会があるよ』
『今日は結婚記念日だね。結婚してくれてありがとう』
『好きそうなキャラクター見つけたから、写真送るね』
『桜が満開になった。めっちゃ綺麗だね』
そんな事を、私はふと妻に送る。
時には写真も添付して。
妻に報告出来なかった事、言えなかった事、言いたかった事。
たくさんの事が、この先もきっとある。
毎日遺影の前で話をするが、面と向かっては言いにくい事もある。
遺影の前ですら、どこか照れ臭かったり、恥ずかしい気持ちになってしまうのだ。
ふと妻に伝えたいと思った時、私は携帯電話から妻に報告をする。
決して既読になる事はないが、妻の事だ。きっと読んでいるだろう。
そんな気がしてならない。
最初のコメントを投稿しよう!