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父親
ある日、父親から頼み事をされた。
スマートフォンに緑色のSNSを入れてほしいとの事だった。
どうやら職場でグループチャットがあり、そこで簡単な事務連絡等をするらしい。
私と父親は、36歳の差がある。
70歳を過ぎ、随分と高齢になったものだ。
携帯電話やパソコンなどもあまり使いこなしていない。
インターネットやSNSなどは、さっぱりダメな父親である。
そんな父親の為、私は父親の携帯電話に緑色のSNSをダウンロードし、初期設定をしていく。
初期設定が終わると、今度は父親に使い方を教える。
と言っても、細かい説明は必要ないだろう。
グループチャットの使い方と、メッセージの送り方や読み方が分かればよい。
初期設定をしている時、ふと私はあるものに目が止まった。
妻である。
電話帳に登録している人を、友達追加している時だった。
職場の人らしき人数人と私、それに妻が友達追加されていた。
と、いう事は。私の父親は私と同じように妻の連絡先をいまだに登録したままという事になる。
嬉しかった。
これは素直に心の底から嬉しかった。
「そっか、まだ登録したままだったんだ」
『ありがとう』という気持ちと『なんだか照れ臭い』という気持ち。
それが混ざり合って、なんだか父親の見てはいけない部分を見てしまったのではないかという罪悪感にすらなった。
父親も母親も、妻は娘と同然だからと言っていた。
これがその答えなのだろう。
時折父親は、妻の花瓶に新しい花を飾ってくれている。
庭に咲く四季折々の花。
季節を感じれるようにと、率先して花を入れ替えたりもしてくれている。
普段あまり喋る方ではない。
ムスっとした顔をし、少し強面でもある。
そんな父親の優しくも深い愛情。
いつまでも娘のように思ってくれている事を再確認出来た瞬間だった。
私は改めて、こんな男になりたいと思った。
そして、この両親でよかったと心から思えたのだ。
きっと両親の妻への愛情は、しっかりと伝わっている事だろう。
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