供物

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供物

私はほぼ毎週、花瓶の花を入れ替える為に仕事終わりにスーパーに行く。 併設されている、いつもの花屋さん。 そこで花を買い、帰って長さを揃えて遺影の横におけばそれで完了である。 が、私はいつもそこで、つい寄り道をしてしまう。 入り口のすぐ左側に花屋さんがあるのだが、その隣がパン屋さんなのだ。 妻はパンが大好きだった。 白米よりもパン。 朝も夜もパン。 お腹が空いたり、何か口に入れるならパン。 そんな人だった。 ならば、そこで妻が大好きだったパンを買わない理由などあるだろうか。 答えはノーだ。 私の朝食や昼食にもなる。 総菜パンが中心にはなるが、たまにバラエティボックスなるものがある。 ミニクロワッサンやミニあんぱんなどが詰まったもの。 それを買うのもいい。 そのままお菓子の所へ行き、これまた妻の大好きだったポップコーンを探す。 さらに、おつまみの豆も好きだったので、それも買う。 たまにはデザートも良いだろうと、デザートも見て回る。 総菜コーナーに、ごく稀に玉ねぎの天ぷらが残っている事があるので、それも欠かさずにチェックする。 妻は玉ねぎが大好きだった。 私が1度、本当に気まぐれで作った、玉ねぎの丸っと煮。 それを食べてからというもの 『私、自分が玉ねぎ好きだったなんて知らなかった』 と、玉ねぎの虜になってしまった。 そんな妻だ。玉ねぎの天ぷらがあれば喜ぶと思うのだが、これがなかなか残っていない。 そうして、あちこち妻の大好きだったものを買い、最後にお茶を数本買う。 妻の飲み物はお茶。 緑茶、ウーロン茶、無糖の紅茶、ジャスミン茶、麦茶。 お茶はなんでも好んでいたが、緑茶や麦茶は家でも飲めるので、ここではジャスミン茶や無糖の紅茶、ウーロン茶を買う事が多い。 この時間が、私はたまらなく嬉しいのだ。 妻の事を考え、妻の喜ぶ顔を想像しながら買い物をする時間。 数少ない、私が妻の為に出来る事。 花を買う時も同じだ。 季節を感じられるものや、色鮮やかなもの、彩りも考えながら選ぶ瞬間。 帰って1週間無事に過ごせた事、お供え物を買ってきた事を報告し、綺麗にお供え物を並べていく。 なるべくなら 『またこれ~?』 と思われないものを選びたいものだが、それが実践出来ているかは定かではない。
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