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輪郭
私はほぼ毎週、仕事の帰りや日曜日の午前中、あらゆる時間を使って仏具店へ通った。
意匠とは別に、細かい説明や値段の確認、外観の大きさの決定など、様々な理由があった。
そして、その中に彫り方の選定もあったのだ。
石の彫り方には様々な彫り方がある。
深彫。これはよく和風のお墓で使われる彫り方である。
文字の部分を深く彫って、文字を目立たせる彫り方。
が、当然深く彫る為、文字の部分にゴミや埃が溜まる為、こまめに掃除をする必要がある。
ほぼ共通して使われる「家」の文字は、画数も多く掃除がしにくい。
しっかりと綺麗に目立つ反面、掃除の大変さは随一かも知れない。
輪郭彫。深彫の逆で、文字の輪郭の部分を彫るやり方である。
厳密には輪郭彫は2種類あり、その彫る深さによって見え方が変わるのだ。
2種類とも文字の輪郭を細くなぞって彫る為、掃除はしやすい反面、水に濡れると文字が消えたように薄くなってしまうデメリットもある。
もちろん、乾けば浮き出てくるのだが、拭き掃除をしたり水を掛けたりすると文字が消えるように見える為、好き嫌いが分かれるだろう。
私は墓誌を含む全てを輪郭彫りにした。
掃除がしやすい事が決め手である。
やはり、妻のお墓はいつまでも綺麗なままにしておきたい。
ならば、ゴミや埃が溜まりにくい方が良いではないか。
黄砂、花粉、PM2・5、光化学スモッグ、塵、埃、枯れ葉。
さらには小さな虫の死骸や糞。
それらは、やはり溜まらない方が良い。
「綺麗なままにしておきたい」
それだけの理由で、私は輪郭彫を選んだのだ。
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