不可

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不可

受給できないとは、どういう事なのか。 私にはまったく分からなかった。 職員の話によると、妻は収入がなく私の給料で生活していた事になる。 その場合、私の家庭の収入に変化はなく、支給する理由がないと言うのだ。 意味が分からない。 それでは何の為に国民年金を払ってきたというのだ。 しかし、それは私が受給者ならばの話。 子供が受給者として申請したならばどうなのだろうか。 すると職員は驚きの言葉を言った。 『お子さんを扶養から外されれば、支給されますね』 またもや、意味が分からない。 私の扶養のままだと、子供の生活に影響がなく、それも支払いの理由に当たらないという。 扶養から外れると、子供の生活費がなくなる為、遺族年金は支給される。 しかし、養子になるなどした場合、その時点で支給はストップ。 私は思わず 『はぁ?おかしいだろ』と、周りも気にせず声を荒げてしまった。 私の子供は、当然のように会社の社会保険の健保に入っている。 それは単純に、私の扶養に入っているからである。 子供を扶養から外せば、子供の健康保険もなくなる。 病気やケガをした時はどうするのか。 いや、そもそも扶養から外さないと支給されないとは、この国の法律はどうなっているのか。 国民から色んな理由を付け、搾れるだけ搾り取るくせに、いざ支払う側となると難癖をつけて払わないようにする。 その浮いたお金が、政治家に流れているとしか思えない。 一部の国の上層部が、そう思われても仕方ないような法律を作っているのだ。 しかし、私にも子供にも支給されないとなると、これは問題である。 金銭面というよりも、妻がずっと払い続けてきたもの。 子供の為に、妻自身の為にと、毎月欠かさず払ってきた。 長生きできたなら、この年金も使って色んな所に行きたいと、笑顔で言っていた。 私は、その時の妻の笑顔を今でも忘れる事が出来ない。 その妻の行為に、私は何としてでも報いたい。報いるべきである。 これは使命。私に課せられた使命なのだ。 だが、誰に相談すれば良いのか分からない。 私は年金事務所を後にし、15年来の友人へ電話をかけてみた。 実はこの友人、初めて妻と結婚前に同棲する時、引っ越しを手伝ってくれた。 もちろん結婚式にも参列してくれた。 何かと博識だが、基本的にはふざけた奴で、一緒にいる時は大抵ふざけた事しかしていない。 朝まで色んな事で討論をした事もある。 中でも鮮明に覚えている事は、「船はなぜ浮いているのか」で討論した時だ。 鉄の塊である船が海に浮くなど、そもそも理由が分からないという私に対し、友人は船は空気を積んでいるからその浮力によるものだと説明する。が、私は船に空気を積むとか空間のムダだと言った。 そんな事をお互いの考えるままに討論出来るのは、この友人だけである。
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