雨男

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雨男

礼服を注文して1週間後。 私は礼服を受け取りに来た。 新品の礼服を見たのは初めてかも知れない。 なんとも言えない、新品ならではの光沢感。 靴やベルトもピカピカで輝いて見える。 私は普段着さえも、ろくに服を買わない。 ブランド物にも興味がないし、服は着れればいいくらい無頓着である。 その私が久しぶりに新品の服、しかも初めての礼服を手にしたのだ。 ある種、興奮に近いような気分でもある。 が、さすが私である。 妻の家に初めて行った時もそうだったが、こういう時は決まって雨。 自分で気づいていなかったが、どうやら雨男らしい。 妻は逆に晴れ女だった。 大事な場面ではいつも晴れており、雲一つない晴天の日が多かった。 迷信といえばそれまで。偶然と割り切ればいいだけ。 だが、さすがの私も雨男と信じて疑わない出来事が後に起こるのだ。 土砂降りでなかった事がせめてもの救い。 私は事前に清算をしていた為、受け取って持って帰るだけである。 が、やはり新品のものを濡らしたくはない。いくら駐車場までの短い距離といえども。 しかし、どうやらこの雨はやみそうにもない。 私は店を出ると駐車場を小走りで駆け、車の前で足を滑らせながらも必死に転ばないように乗り込んだ。
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