納骨

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納骨

私は仏具店の社員さんと一緒に、ちょっとした世間話などをしながら納骨式の準備を進めていた。 お墓を綺麗に拭きあげて、お花を切り揃えて生ける。 用意してきたお供え物もちゃんとある。 そもそも、よくあるお墓参りと納骨式ではお供え物が違う。 と、いうよりも、形式が異なる。 その儀式に合わせたものを用意する事が必然であり、常識というもの。 が、実際に何をお供えしたら良いのか分からず、色々と調べておいたのだ。 抜かりはない。 このお供え用の小さな台を、仏具店の人が持ってくると聞いていた。 早速その台を設置し、お供え物を置いていく。 やはり見栄えは気になるし、こだわりたいところ。 奥の方に妻の好きだった玉ねぎを配置する。 その両サイドに妻の好きだったお茶や紅茶。 手前にお菓子を少し置く。お菓子は妻が大好きだったポップコーン。 うむ。見た目もよく、これなら妻も喜んでくれそうな気がする。 本当なら、ここにある大好きなものを、何年、何十年と食べたり飲んだり出来た事だろう。 花も好きだった妻の事だ。色んな花を見たかっただろう。 そう思うと、私は自然と何かがこみあげてきた。 妻が出来なかった事、過ごせなかった時間、見れなかった景色。 食べたかった物、飲みたかった物、笑いたかった事、怒りたかった事。 そういうものを、私は妻の分まで生きていかなければならない。 子供の成長も、きっとその一つだろう。 妻と話し合い、共に手を取り合いながら子育てをしていくはずだった。 子供の進路や成長過程で、意見が食い違う事もあっただろう。悩む事もあるだろう。 そういった事を、妻と一緒に出来なくなってしまったという喪失感。虚しさ。寂しさ。 でも私はきっと大丈夫だと思うのだ。 なぜなら、いつでも妻に相談出来るから。 遺影の前で。心の中で。 そして、このお墓の前で。 返事はなくても妻は聞いてくれる気がする。 だから私は決して忘れないのだ。 妻の大好きだったものを。 何一つ忘れてはいけないのだ。
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