解約

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解約

2021年1月中旬。 私は携帯ショップに来ていた。 妻の携帯電話を解約する為である。 携帯料金の基本料金は、毎月月末まで固定。 解約した日が月初や中旬だった場合、日割りになるのだろう。 だが、妻の携帯料金は月末まで待っていても、料金が上がる事はない。 ならばと、私は妻に一度謝罪してから携帯電話を起動させた。 以前にも、妻の携帯電話を起動させた事がある。 1月3日だ。 妻の事を心配している友人や、歌のお仲間さん達に、きちんと連絡しなければならない。 その為、妻の携帯電話から緑色のSNSを開き、連絡をしたことがあった。 今回も同様である。 緑色のSNSを開き、妻の携帯電話を解約する旨を伝えた。 もし、何かあった時の為にと、私の連絡先を記載しておいた。 その連絡をし、返事をしっかりと確認してから解約に来たのだ。 解約手続きには、本人の死亡診断書が必要との事。 事前に電話連絡をして確認しておいた為、忘れずに持ってきていた。 係の人に死亡診断書を渡し、必要書類に記入をする。 「もうこの電話の持ち主は死にました」 と、言っているのと同じ事で、やはり寂しい。 「あぁ、そっか。もうこの電話に電話をかける事が出来なくなるのか」 そう思うと、胸の奥の方が締め付けられるように苦しかった。 もう二度と鳴る事がなくなった妻の携帯電話。 だが、私は未だに妻の電話番号がメモリーに入っている。 消す事などないだろう。いや、できないのだ。 この先、何度携帯電話を機種変更したとしても。 私はきっと、最初に妻の電話番号を登録する。 妻の電話番号を消してしまうと、どこかで「妻を忘れた」という気持ちになってしまいそうだから。
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