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◇
「はあ…はあ…あー、ここまでくれば大丈夫……かな。こたろーちゃん、平気?」
話しかけるも、返事がない。
「こたろーちゃん?」
そう言って、小太郎の方を向くと、顔を赤らめ、胸をおさえるポーズでフリーズする姿が見えた。
「え!?顔赤いよ!大丈夫なの?小太郎……」
姫野ゆうりが、小太郎の肩に触れると、ビクリと体を動かす。
そして、
「う…………大丈夫だよっ☆」
と、明るい声を出してみせた。
「そう……?でも、辛かったら遠慮なく言ってね。……心配…だから。」
少し潤んだ瞳に見つめられる。
天使は存在したのだ。
後ろの方で、何かが倒れるような音が聞こえる。
おそらく、姫野ゆうりのファン達だろう。
「あ……うあ…」
またもや赤面する小太郎。
「ほんとに大丈夫!?」
この姫野ゆうり、無自覚である。
「もう!!はやく行こ!!!」
また心配しだした姫野ゆうりを強引に引っ張って、映画館に連れて行く小太郎。
既に映画は始まっている。
◇
今回、二人が観に来た映画は、「あの日を君ともう一度」という感動モノだ。
ラストシーンで、小太郎が何気なく横をみると、姫野ゆうりが涙を流していた。
その姿が、あまりにもきれいで。
メイクが崩れるのを恐れ、泣くことのできない自分がどうしようもなく嫌になる。
「今なら会長の気持ち、すこぉしだけ分かるかも…」
そう、小さく小さくつぶやいた。
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