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私は幾度か警告をした。
お前が母さんの肖像画をどちらか一方でも見に行っていたなら、その場に置かれた手紙を読むことができただろう。これが偽りのダンジョンだという種明かしと、長い長い詫びの手紙を。
だがお前はどこまでも他者を慈しまなかった。
その結果が今だ。
突き放したような物言いになってしまったが、お前が可愛い我が子であることに変わりはない。
小さくともあたたかな幸せを手にして欲しかったし、そう導けなかった己を悔いつつ、この手紙が永遠に開封されないように願っていた。
それだけは真実だと誓おう。
さあ新たな魔王よ、名声を求め押し寄せる勇者達に何を語る?
ありったけの言葉で罵り、力の限り戦うか。
顛末を打ち明け同情と助けを乞うか。
もし潔く口を閉じてこちらへやってきたなら、その時は存分に不平不満を聞かせてくれ。何だったら一戦交えてもいい。
母さんとも一緒になれることだし、私としてはそれが最良の終焉ではないかと……
いや、こうした訴えこそが空虚な徒労なのかもしれない。
どれだけ残虐で周囲を苦しめようと、お前は自分の力で人生を歩んできた。当然、相応の責任を負う覚悟もできているだろう。
選択は自由だ。どうか老いた病人の今際の戯言としてこのくだらない手紙を焼き捨ててくれ。
魔王になった息子へ、愛を込めて
最後まで無力だった父より
(END)
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